アイズ 鈴木光司

アイズ (新潮文庫)

アイズ (新潮文庫)


きっかけ
鈴木光司は、リングを読んでからかなり好き。新刊で買うほどではないのだけど、毎回読むたびにやっぱりホラーが流行ったけれど、その中でも鈴木光司の作品は群を抜いていると思う。100円だったから、当然買った。


ネタバレ・あらすじ
鍵穴
主人公は松浦宏和。事業に成功して豪華なマンションを買った友人の大石の家に行くところから始まる。しかし、その大石のマンションのある町はどこか覚えのある風景だった。大石の家に着くと、その昔あこがれていた早苗に妻として迎えられる。
一緒に酒を飲み交わすと、話は昔の共通の友人、鳥居の話になる。3人して早苗に憧れ浪人してまで同じ大学に行こうと勉強した。しかし、遅れて入学したころには、早苗にはすでに彼氏がいた。その時の鳥居の落胆ぶりは尋常ではなく、大学にも来なくなり、2人で部屋に様子を見に行くと躁病の薬の副作用で亡くなっていた。その時にも早苗の写真をにぎりしめていた。鳥居の夢は、金持ちになって早苗を妻にめとることだった。
大石のマンションから帰る時に、松浦は大石にわざわざこの場所のマンションを買った理由を尋ねる。価格などの条件を言うが、それ以上に松浦にはこの場所が鳥居が死んだ下宿の場所なのになぜ?というのがあった。大石はそれを知らなかった。
ただ2人は、鳥居が死んでからも鳥居の夢を違う形で実現させる手伝いをしてしまった。そして、「また呼ばれちまったな」とつぶやく。


クライ・アイズ
辻村昭典は、ホテルの上層階の一室で女に猿轡をかませ、下半身を向かいのマンションの住人に見せるようにして罰を与えている。
向かいのマンションには、川瀬隆三が安芸子を愛人として住まわせていた。しかし、今日はいつもと違い安芸子が部屋にいなかった。少し出かけているのだろうといつものようにマリファナを吸い始める。その時、向かいのホテルの一室に安芸子の足らしいものが見えたので取り返しにいかなければと部屋をでた。
川瀬は辻村の部屋に乗りこんだ。いくらでも金をだすから安芸子を返してくれと64万を渡す。安芸子を連れて帰ろうとするが、死んでいることに気づく。これは本当は安芸子ではなくただのドールだった。辻村はストレス解消や性欲のために2時間借りる契約をしていたのだ。しかし、マリファナの作用も手伝ってか川瀬にはドールが安芸子ではないと認識できない。逆上して辻村を蹴り殺した。
一方、安芸子は愛人という地位にも生活にも嫌気がさしていたが、愛情がそれをはばんでいた。少し心配をさせてやるつもりで家をでたが、捨てられるのは嫌で部屋に戻った。マリファナの臭いがすでに充満していて、それにつられ安芸子もマリファナを吸う。ベッドの隆三に近づくと隣に女が寝ているのが見えた。自分に似ている女をつれこむという復讐にでたのでと思い込んだ安芸子は、キッチンから包丁をもちだし隆三を殺す。その後に前々から何度も思い立っては抑えていた自殺をするためにバルコニーにでる。
人形はその人間たちの行動を笑みを浮かべている。


夜光虫
川端光明は、想いをよせている倉田貴子をを誘い仲間と共にナイトクルーズにでていた。
ヨットでのトイレを終え、ポンプで洗い流していると便器の中にビービーだまが流れ込んできた。それは貴子に幼い頃に、ビービーだまを飲み込んだ友達の事件を思い出させた。そのビービーだまに嫌な予感を覚え、オーナーズルームに閉じこもったままの娘の真由のことを思い出した。
オーナーズルームを確認したが真由はいなかった。ヨットに乗っている誰もが真由の姿を見ていないので、落水という可能性も考えられた。と同時に船に乗せるのを手伝った人間が誰もいないので、そもそも船に乗り込んでいないことも考えられた。真由は実の父親にもなつかない子供で、それが原因で貴子とも離婚している。川端との結婚も真由との相性が問題だ。
真由の捜索は続いたが姿を発見することができず、ヨットで来た道を戻りながら海面に真由の姿を探すことになる。夜光虫に縁取られた青白い遺体を発見した。しかし、それは真由ではなく男の子だった。その時に貴子の携帯電話が鳴り、真由はヨットに乗らずに市場をうろうろしていたらしい。
携帯から聞こえる真由の「ずっとここにいたのに、見つけてくれないんだもん」という台詞は、男の声と重なった。


しるし
小学5年の由佳里は、家の臭気やクラス替えのショックで神経が過敏になっていた。夜中に胸の動悸で目が覚めることもあった。朝刊をとってくるのは、由佳里と弟の翔太の仕事だった。朝刊を取りに玄関をでようとしたところ、外に気配を感じて魚眼レンズから外を見ると帽子をかぶった男か女かわからない人が横切った。恐ろしさでその場に止まっていると、父親が起きてきて様子を見に行ってくれた。誰もいなかったが、表札には赤いマーカーでFと書かれていた。
母は、父を嫌い、父に似ている由佳里も嫌っていた。その分自分に似ている翔太を溺愛していた。母に嫌われても、いつか一旗あげてやろうと意気込んでいる父を由佳里は応援していた。
その後も由佳里の家の表札にだけ文字が書かれていた。Fの次はA。Aの次はT。FATという単語は太ったという意味で、いたずらだと考えられた。母親により上の階や隣家の人、はては父親までが犯人扱いされた。
しかし、表札の文字は続き、次にはEという文字が書かれていた。FATE、運命という意味。それから1週間後父親は、「自分の人生を生きろ」と由佳里にメモを残して家を出て行った。
18年が過ぎ、由佳里は父親と会うことになった。家族の近況を聞き、そして自分の話をはじめる。やはり父親はFATEから運命を感じて、好きな女と一緒に暮らす道を選んだのだという。そして、その妻も子供も亡くして由佳里に会いに来たのだと。父親は、5つ目のRという文字を知らない。そして、本当は3つ目と4つ目の間のHという文字も。父親から見せられた子供の写真はガンと戦っているときの帽子をかぶっている子供だった。最初のFという文字が書かれた日にレンズからみた子供だった。
父親のどの子供はいつか自分がガンで死んでしまうと知っていても生まれてきたくて、父親に頼んでいたのだった。気持ちをかためさせるためのFATHER、父親という6文字。



名波啓二は、栗太しのぶに誘われ映画を見に行った。映画の内容はとてもつまらないもので、ほとんどいい部分はなかった。しかし、後半にでてきた廃墟の映像からすごく興味を引いた。その場所は名波が小さい頃に過ごした場所だった。
名波は小さい頃の記憶が思い出せない部分がたくさんあり、母も本当のことを何も教えてくれなかった。父にも聞きたかったが、父は小さい頃に失踪したままだった。父は死んだことになったが、葬式の記憶もなかった。
しのぶに映画のことを聞き出し、その廃墟の場所を探しに行く。しのぶと廃墟に行ったが、自分の思い出の場所に触れているうちにしのぶの姿は見えなくなってしまっていた。この廃墟には思い出がたくさんあり、そこに住んでいた頃のおばちゃんや村の人を思い出していった。自分の家を発見した。その家での思い出のテープレコーダーを見つけたりして感傷に浸っていた。しかし、家の壁に塗りこめられた新聞を見つけて愕然とする。それは自分の生まれた日の日付だった。新聞にはその日記録的な雨があり、名波の家族がその土砂で死んだことが載っていた。
名波は自分が40年間もさまよっていたことを知る。


杭打ち
野末和己は、ゴルフとセックスに人生をかけていた。汚い商売もしながらも順調にお金をためていってゴルフコースに何度もでている。ある時、朝のゴルフコースの池で大きな矢で固定されたかのような男の死体を発見した。
しかし、新聞にはその死体や殺人事件の話は載っていなかった。警察に問い合わせてもそんな事件はなかったといい、さらに問い詰めるとあれは自殺ですよと説明される。背中に矢のささった自殺などあるはずはない、これは金になると感じた野末は事件について調べ始める。矢のことを思い出してネットで検索していると、それは陸上競技の槍だと分かった。
ゴルフコースで従業員に話を聞くが、どうもおかしい。誰もが背中にそんなものは刺さっていなかったという。緘口令がしかれているのかと疑うが、一緒に見たはずの瑞江も槍などなかったという。そのとき、ちょうどゴルフコースにはその死んだ男の妻が来ていた。話を聞きだせるとふみ、野末は送っていくことを申し出る。
車の中での話では、夫が自殺した理由は帰ってきた娘の借金が理由で会社がつぶれ、睡眠薬を飲み自殺したようだった。借金をした娘の話を続けて聞いていると、山中いちという聞き覚えのある名前がでてきた。今まで思い出したこともなかったが、それは野末が昔働いていた訪問販売の高額な英会話教材を売った客だった。そのまままとわりつかれたので、めんどくさくなり売り飛ばしたのだった。さらに聞くと、いちは槍投げの選手だったことが判明する。事件の話どころではなく気持ち悪い話ばかりきかされるので、野末はその妻を山に捨てて逃げた。
山を下りる野末は背中に違和感を感じ振り返ると、あの槍が自分に向かって飛んできているところだった。槍に全神経がいき、カーブを曲がりきれないスピードをだすようにアクセルを踏み続ける。


タクシー
雨の中、詳子はタクシーに乗った。運転手の携帯が鳴り、そのことは1週間前に交通事故が思い出された。事故の原因になった携帯電話に憎しみをこめ、さらに面白半分で死んだ久保田智彦に電話をかけた。遺品のダンボールにも事故の社内にも携帯電話はなかったが、今もどこかで鳴っている。そのとき、タクシーは目的地へのルートをはずれた。
ちょうど今入った道は久保田智彦と初めて会った道だった。ひったくりにあい、そのひったくりをつかまえるきっかけになった写真をとったのが久保田だった。それからモデルをやってくれとたのまれ、今まで関わったこともない人種とも交流しひかれていった。
すでに詳子は結婚していたし、久保田も離婚を経験していた。しかし、詳子の可能性を認めてくれる久保田と一線を越えてしまい、来年もこのサクラを見ようといわれ、今の主人と離婚することを決めた。
久保田との結婚を決め、その報告の写真を選んでいたが写りのいい写真が見つからなかった。
写真の在り処を聞くために智彦に電話したことで、彼が車をとめ、そこにトラックがつっこんできて死んでしまった。
電源を切ったはずの運転手の携帯に電話がかかってくる。そして、タクシーは目的地について、お金をはらうときにレシートと紙幣の間に写真が入っていた。こんなところに入れて忘れたままというはずはないのだけど。そのとき、運転手が声を掛けてきて、「あなたの大切な人は今もあなたのことを見守っています」と伝える。



桶狭間の戦いの最中で、櫓の上で死ぬまで戦うことを自分の上役が勝手に決めてしまった。下りるためのはしごも蹴落として篭城することになった。仲間は弓で死ぬし、逃げるために下におりたものも串刺しにされてしまい、敵が下を通るが、この櫓は戦力ともみなされずに無視されていく。ただ念仏を唱えて死を待つだけになった。
続いて、1947年。城の跡がある場所までいつのまにか、望月妙子は歩いてきてしまった。子供の頃の一家心中未遂や、その後にも1度自殺をしようとして自分の子供にとめられている。しかし、今回は嫁いだ家の姑のいじめなどに耐え切れなくなり、ついに本当に死ぬことにした。そして、念仏を唱えて首を吊る。
そして、現代にうつる。その場所には町営住宅ができた。家賃が安いことと、母、娘、息子の3人の家族で住みやすいことで雅子はここに住むことにした。しかし、娘の仁美がバルコニーで涼んでいるとそこに鏑矢が飛んできて窓を割った。
それから、町営住宅ではラップ音や幽霊やそのほかの奇妙な現象が起きるようになった。マスコミや祈祷師がおしかけて普段の生活もできないようになっていた。その中の1人の祈祷師が、雅子にこの騒ぎの理由があると伝える。思い当たる節はなかった。
仁美は学校でもいじめられていて、班長の埼山くんの提案でいったピクニックも、最後に車の中で吐いてしまい失敗した。それからさらにいじめられるようになり、でも自殺のきっかけをつかめずにいた。その時、前途洋洋だったはずの埼山くんが死んだことを知る。あの崎山くんでもと思い、バルコニーから飛び降りようとする。そのとき、戦場が見えたくさんの人が死と直面していた。それを見て死が簡単なことと知った仁美は生きていこうと思った。そのときに、怪現象も全部しずまった。


感想・レビュー
やっぱり鈴木光司は水に関係するなぁと思った。それについても、あとがきに理由が書かれている。その体験が「灰暗い水の底から」になっているとのこと。
この短編集に関しては、呼ばれたというのもキーワードかもしれない。つながりとか因縁とか感じる。僕はその中でも、しるしが好きだった。