カラー版妖怪画談 水木しげる

きっかけ
妖怪というか水木しげる大好きな人間としては、中古本の棚で見つけたらたとえ100円じゃなくても買わないといけません。しかも、カラーときました。ちなみにブックオフで350円で買ったような気がします。


ネタバレ・あらすじ
水木しげるの妖怪たちが4つの種類にわけられて、すべてカラーで解説付きで紹介されています。


1、奇妙なものみてある記
民間信仰みたいなものを水木しげるが実際にみてきたもの。なので、妖怪ではない。
オシッコ様、だきつきばしら、手足の神、地蔵堂田県神社、鬼あざみ、銭洗い弁天、釘抜地蔵尊、いやだにさん、道通さま、はんぴどん、ガータロ、ニューギニアの森の精霊、アフリカの妖怪たち


2、出会った妖怪たち
水木しげるが実際に出会った妖怪たち。現象っぽくて害のないものが多い。
金霊、べとべとさん、あかなめ、川赤子、網切、天井なめ、家鳴り、餓鬼憑、クネユスリ、天狗倒し、しらみゆうれん


3、妖怪の有名人たち
いわゆる一般的な妖怪。キャラクターとして成り立っているものが多くて、鬼太郎のアニメや漫画でも見たことがあるようなのが多い。
魍魎、座敷坊主、こなきじじい、のびあがり、火車、大入道、河童、舌長婆、人魚、手洗鬼、ひょうすえ、口裂け女、濡れ女、土転び、木霊、吹消婆、九尾、猿神、輪入道、目々連、あやかし、ぬらりひょんたんころりん、足まがり、やろか水、山男、寝ぶとり、釣瓶落とし、ぬっぺほふ、がしゃどくろ、紙舞、すねこすり、二口女、煙羅煙羅、豆狸、海坊主、キジムナー、馬の足、雪女、座敷童子、産女、センポク・カンポク、一つ目小僧、尻目、坊主狸、三吉鬼、大かむろ、鬼太郎


4、幽霊・付喪神のたぐい
誰かの死んだあとの無念とか、100年以上使われた器物が化けたもの。
人魂、精霊風、場所にいつく霊、ノツゴ、松の精霊、縊鬼、小右衛門火、みの火、海月の火の玉、老人火、たたりもっけ、まぶいこめ、正塚婆、狂骨、寒戸の婆、すっぽんの幽霊、イズメの怪、山颪、舟幽霊、妖怪バンドリ、琵琶ぶらぶら、鳴釜、袋貉、ぶらぶら、蓑草鞋、禅釜尚、置行堀、首かじり、ぼろ布団


感想・レビュー
やっぱり水木しげるの絵をカラーで見れるのは良いです。特徴的な絵もさることながら、水木しげるは色使いがすごいというのをどこかで聞きました。ただの妖怪好きなのでそこまではよくわからないといえばそうなんですが、絵を見るとやっぱ他の人たちとは違うなぁと思うのです。妖怪というこわいものながら暗い色ばかりではありません。
奇妙なものをみてある記はまぁ初めて見る絵ばかり。でも妖怪じゃないので少し楽しみが少ないかなぁ。やっぱり妖怪の有名人たちと付喪神あたりの妖怪妖怪しているのが楽しいです。お気に入りの妖怪は、大かむろ、釣瓶落しあたりかなぁ。アニメなどで見た他の有名妖怪もみたいものです。あとアニメ第3期鬼太郎のエンディングでもでてくる絵がいくつかあって、それがようやくなんて妖怪か分かってすっきりしたものもあります。場所のいつく霊とか海月の火の玉とかです。
狂骨なんかここで出てくるほど有名なのかと不思議に思います。京極夏彦狂骨の夢で初めて知った妖怪なのですが、それ以来いろんな妖怪図鑑なんかでも割とでてくるようになりました。
ついでながら続編とか世界版もあるのを知ったのでそっちも手に入ればいいなぁと思います。

ループコースパズル 学研セレクション

きっかけ
スマートフォンの無料アプリのループコースパズルがおもしろくてはまってしまった。本屋に行ったところ、これ1冊しかなかった。なので定価の500円で買っています。1冊しかないってことは一般的な知名度や人気はあんまりないのかなぁ。


ネタバレ・あらすじ
こういうパズル誌にネタバレやあらすじっておかしいと思うのだけど、まぁ紹介。
問題数は、難易度1が57問、難易度2が25問、難易度3が17問の合計100問。サイズは全部同じで10×10です。答えも巻末に全部あります。あとは、終わりの方にループコースを解くテクニックが、数字の並びごとに解説されているので、それを覚えるとスラスラ解けるかも。
ポケットサイズなのでかばんなどに入れて持ち歩けるので、バスや電車で解いてもいいかもしれない。


感想・レビュー
まだ全部解いたわけじゃないけど、レベル1はスラスラ解けて楽しい。問題数も500円で100問ならまぁいいかなと思います。
ただサイズが全部10×10なので、もう少し大きい問題もあれば楽しいなと思います。ポケットサイズという点を考えるとこれはしょうがないとは思うけれど。見開きを使えばできるかなとも思います。
あとは、パズル雑誌なんかでちょっただけループコースパズルがあったりする時があるのだけど、その時はマスに対して4角の点だけです。しかし、この本はマスが点線で全部囲われているので、えんぴつで線を引いても正直分かりにくいのがちょっと良くないです。

螢・納屋を焼く・その他の短編 村上春樹

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)

きっかけ
大学生の頃に付き合っていた彼女が村上春樹のエロさがなんか好きと言っていて、それで村上春樹作品をほとんど読んだ気がする。引越しなどで全部売ってしまったのだけど、なんか買い戻したくなった。しかし、1Q84などの売れ方から興味をもった人が多いのか、ブックオフでも100円で見つかることがすごく減ってしまった。そんな時に見つけた1冊。


ネタバレ・あらすじ

主人公の僕の回想の話。14,5年前の大学に入ったばかりの頃。ちょっと右翼気味の人たちが運営する寮に入っていた。朝は君が代国旗掲揚で始まった。同居人は吃音があり将来は地図を作ろうと勉強している。この同居人がとても几帳面で部屋はいつも片付いていて、朝は決まった時間に起きてラジオ体操をして僕とそれについて喧嘩したこともあった。
そのラジオ体操の話をすると彼女はくすくす笑った。彼女は高校生の時に死んだ仲の良い友人の恋人だった。高校生の間によく3人で遊んだ。友人は最後に僕とビリヤードをしたあとに車の排気ガスで自殺をした。葬式の後、彼女とは1度会っただけだった。
半年ぶりにあった彼女は女子大に通っていたが見違えるほど痩せていた。それから話すことのあまりない僕らは月に1、2度歩くだけのデートをした。だんだんと距離は縮まり、列になっていたものが自然と横を歩くようになり、寒くなるころには腕に体を寄せるようにもなった。ただ彼女が求めているのは誰か別の人のぬくもりだった。
それから月日が過ぎ6月になり、彼女は二十歳になった。誕生日は雨だったがケーキを買い彼女のアパートでお祝いをした。食事の後にワインを飲むと、彼女は珍しくよくしゃべった。たくさんの話を克明に4時間以上話し続けた。僕は帰りの電車を気にしたが、彼女の話をとめたほうがいいようにも、とめないほうが良いようにも感じられた。しかし、結局話をやめさせることにして帰る旨を告げたが、彼女は一瞬口をつぐんだだけですぐにまたしゃべり続けた。
彼女の気が済むまでしゃべらせておこうと思ったが、気がつくと彼女の話は終わっていた。突然彼女の話は消えてしまった。そして、泣き出して涙は止まることがなかったので、僕は抱きしめた。そして、彼女と寝た。彼女はまだ寝ていたが、近いうちに電話をしてほしいというメモの残して僕は帰った。
それから1週間しても電話はかかってこなかった。彼女のアパートは電話の取次ぎをしてくれないので、僕はできるだけ正直な気持ちを手紙に書いた。彼女からの返信が7月にあった。大学を休学することにして、京都の療養所に行くという内容だった。僕はそれからも今までと同じように土曜の夜には電話の前で待った。
その月の終わりに同居人が近くのホテルの客寄せから紛れ込んできた螢をインスタントコーヒーの瓶に入れてくれた。僕は螢の瓶を持ってくれて寮の屋上にあがった。記憶より弱い光の螢を見ながら、水門の何百匹という螢を思い出したりした。螢は瓶からだしてもなかなか飛び立たなかった。最後には闇に光の軌跡を残して飛んでいった。

納屋を焼く
彼女とは知り合いの結婚パーティで出会った。僕は31歳で彼女は20歳だった。彼女はパントマイムの勉強をしながら、モデルの仕事で生活していた。足りない分は幾人かいるボーイフレンドからの援助で成り立っていた。蜜柑剥きのパントマイムを見せてもらった。蜜柑があると思い込むのではなくて、蜜柑がないことを忘れることが必要だ。
二年前の春の彼女の父親がなくなりまとまった額のお金が入った。彼女は北アフリカに行きたいというので、アルジェリア大使館の女の子を紹介した。彼女は3ヶ月後にきちんとした身なりの日本人の恋人を連れて帰ってきた。恋人は20代後半で貿易の仕事をしているらしい。
それからも彼女と彼とは何回か顔を合わせた。偶然街で彼女とあっても必ず彼は一緒にいたし、僕が彼女とデートするときも送り迎えをした。
妻が親戚の家にでかけてりんごばかり食べていたある日、彼女は彼とうちに遊びに来た。いろんな食料品を買い込んできていた。サンドウィッチやスモークサーモンを食べ、ビールを飲んだ。
その後、彼にマリファナをすすめられ1ヶ月前から禁煙していることで迷っただけが吸った。ビールと大麻により彼女はすぐに寝てしまった。彼は応接間で2本目の大麻を吸っていた。大麻により僕は小学校の学芸会でやった子ギツネが手袋を買いにいく話を思い出していた。
その時に、唐突に彼は「納屋を焼くんです」と言った。聞き違いかと思い聞き直すと「時々納屋を焼くんです」と繰り返した。誰もつかっていないような納屋にガソリンをかけてマッチを放ち、遠くから双眼鏡で眺めるらしい。2ヶ月1度くらいのペースが一番自分にあっている感じがするらしい。いつでも焼けるような納屋を常にストックしておくようだ。次に焼く納屋は決まっていて実は今日はその下見だったらしい。
そして、5時に恋人を起こし、ビールを20本以上飲んだはずなのに彼は完全に素面のままスポーツカーを運転して帰っていった。
僕は次の日、本屋で僕の住む街の詳細な地図を買ってきた。その地図を元に3日かけて4キロ四方をくまなく歩き、16個の納屋の場所に×印をつけた。その納屋から彼が焼きそうな納屋を調べ始めた。人家に近かったり、まだつかっているものなど、人に迷惑をかけそうなものは除外した結果、納屋は5つにしぼることができた。その納屋のめぐるジョギングの最短コースを計算した。距離は7.2キロだった。
翌日から1ヶ月間毎日そのコースを走ったが、5つの納屋はどれも焼けてなくなることはなかった。
12月の半ばに彼にあって納屋についての話を聞いた。納屋は前に会った時から10日後に焼いたという。場所も近くだという。近く過ぎて見落としたのではないかと言われた。
その後、彼女についてきかれた。1ヶ月前から連絡がとれなくなっていて、無一文でで消えてしまったらしい。僕もその後何度も彼女に電話をかけたが、連絡はとれない。アパートにも行ったが部屋はしまったままで管理人も見つからなかった。さらに1ヶ月後には彼女の部屋には別の住人の札がかかっていた。
それ以降もずっと5つの納屋のジョギングコースを走っているが、納屋は1つも焼けていないし、納屋が焼かれたというニュースもきかない。


踊る小人
夢の中で小人がでてきて、僕に踊りませんかと言った。それが夢だとは分かっていたが疲れていたので断った。小人の踊りはとてもうまくかった。踊りをやめた後、小人は身の上話を始めた。小人は踊りのない北の国から、踊るために南の国へ来た。酒場で踊り評判になって革命前の皇帝の前でも踊った。皇帝が亡くなった後は、街を追われ森で暮らした。小人はその後も踊り続け、僕は葡萄を食べた。空気がひやりとして、消え時を悟って僕は、「そろそろ行かなくちゃいけない」と小人に言った。さよならを言ったが、小人はまた必ずここに来ることになり、それからは森で自分と一緒にずっと踊ることになると言った。
夢からさめると職場のゾウ工場に行った。象工場は部品ごとにそれぞれのヘルメットとズボンが建物の色と同じになっていた。今僕の配属されているのは作業のとても簡単な耳づくりセクションだ。ゾウ作りは1頭のゾウを捕まえてきてのこぎりで解体して、ゾウの部品を水増しして5分の1だけ本物で5分の4が偽物のゾウを作る。それは見た目には分からなくて、ゾウ自身にも分からないくらいの代物だ。
耳セクションでノルマをこなした後は、相棒と世間話をしたり本を読んだりする。その中で夢に小人がでてきた話をすると、いつもは無反応な相棒が小人の話を聞いたことがあると言い出した。やっとのことで思い出した小人の話をしていたのは、革命前からつとめている第6工程の植毛じいさんだという。話の内容はきいたのがずいぶん前なので忘れてしまったので、自分と聞きに行くといいと言われた。
終業のベルの後に第6工程に行くとすでにおじいさんはおらず、いつもの古い酒場にいると教えてくれた。老人は古い革命の前の写真の下に座っていて「これがワシだ」と言った。メカトール酒をおごり席を変えてから、踊る小人の話を聞かせてもらうことにした。
踊る小人は北から来て、毎日このゾウ工場の酒場で踊っていたらしい。小人は酒場で半年踊り、小人は踊り方1つで人々の感情を自由に操るやり方を身につけることになった。その評判は皇帝の耳に届き、皇帝の前で踊った。そして宮廷に召し抱えられるようになった。1年がたった頃革命が起き、皇帝は殺され、踊る小人は逃げた。踊る小人はそれから今でもずっと革命軍に追われているらしい。どうやら小人が皇帝の前で感情を動かす力を使い、そのせいで革命が起こったんだという噂もあるらしい。
それきり夢に小人がでてくることもなく、僕は毎日ゾウ工場で働いた。第8行程にとびっきりの美人が入ったというので、適当な理由をでっちあげて身に言行った。その子はとてもきれいで踊りに誘ったが、全然相手にされなかった。
その夜に夢に踊る小人がでてきた。小人は前に会った時よりも疲れていて、踊っても疲れないような活力が必要だと言った。小人は女の子をなんとかしたいのだろうと言った。踊れば彼女をものにできるといったが、その踊りを習得するまでには半年はかかると言った。明日彼女と踊るのでそんなに待てないというと、小人が僕の中に入り僕の体で踊ればなんとかなると言った。小人の良くない噂があったので体をのっとらってないか警戒したら契約を持ちかけられた。舞踏場に足を踏み入れてから女を完全にモノにするまで僕は一言も声をだしてはいけない、声をだしたら体をもらい、我慢出来れば小人は体をでて森に帰るというものだった。僕はその契約にのった。
土曜の夜に舞踏場に行ったが、彼女は1時間が過ぎてもなかなか現れなかった。9時を過ぎた頃に彼女は現れた。幾人ものエスコートをする手を払い踊った。僕はそこに近づいていき旋風のように踊った。僕の体は僕のものではなかった。何時間も踊って後、彼女は僕の肘をつかみ舞踏場をでて川沿いを歩いた。ダンスの後で何もしゃべる必要はなく、ただ彼女はくちづけを待っているようだった。そこに口を近づけていくと彼女の顔に変化が起こった。顔中から蛆虫や膿があふれでてきて、歯や髪が抜けくずれていく。思わず声をあげそうになるが、これは小人の罠と思い、腐臭のする彼女の口のあった部分にくちづけをした。小人は負けを認め体から出て行った。ただ小人は今後何度も僕の前に現れ勝負をする、1度でも負ければ体は俺のものだと捨て台詞を吐いて消えて行った。
結局小人の言うことは正しくなった。僕の踊りを見た誰かが小人が中にはいっていると官憲に告げ口をしたらしく、ずっと追われている。ゾウ工場のゾウを1匹盗んで森に逃げた。小人は毎夜夢にでてきて体に入れろといった。森で踊り続けることになるが、体は八つ裂きになることはないと言う。


めくらやなぎと眠る女
僕はいとこを連れて耳鼻科の病院に行くことになっていた。いとこは小学校でボールをぶつけられて以来、右の耳が聞こえなくなってしまった。それにより左耳にも影響が出ることがある。ただ今まで8年間で回った耳鼻科は外傷のせいではなく、精神的なものじゃないかという医者もいた。
病院に向かうバスは、僕が高校生のときに使っていたルートだった。中にはなぜかハイキングシューズを履いた健康そうな老人の一団が乗っていた。老人が行くような場所は停留所で思い浮かばないので、昔とルートが変わったのじゃないかと確認もしたが、ルートは昔と同じままだった。バスの車内ではいとこと、痛みについての話をした。今までに感じた1番痛かった経験は忘れてしまった。いとこはこれから先、いくつもの種類の痛みを経験していくことをとても嫌がっていた。それから僕が仕事をやめたことについて話をした。
病院前の停留所でバスを降りた。老人の一団はどこに向かっていったのか分からず終いだった。いとこを診察室に送った後、僕は病院の食堂でコーヒーとパンケーキを頼んだ。食堂から見える山羊やうさぎや双子のオレンジジュースを飲む女の子を見て、この風景を見たことがあると思った。しかし、最後に病院に行ったのは8年前のことだからそんなはずはなかった。
そこから17歳の頃のことを思い出す。友人と一緒に友人のガールフレンドをお見舞いに行った。ガールフレンドは胸骨の1本が内側にずれているので手術をして、その箇所が心臓に近かったので経過を見るために2週間くらい入院していた。覚えているのは彼女の胸の白い骨とボールペンだけだった。コーヒーのおかわりをしてさらに思い出すと、彼女がボールペンで紙ナプキンの裏に絵を書いている場面だった。彼女は見た夢をふくらませて長い詩を書いていたのだった。そこにでてきたのがめくらやなぎだった。めくらやなぎの花粉をつけた蝿が女の耳に入り眠らせる。そして、女の体の中で肉をむしゃむしゃと食べる。
いとこが戻ったは12時20分だった。そのまま食堂でいとことハンバーグランチを食べた。停留所でバスを待つ間に、いとこの治療のことや耳の聞こえなくなることについて話をした。いとこは耳が聴こえないことについて考えると、リオグランデの砦という映画のインディアンを見ることができるというのはインディアンがいないということですというセリフを思い出すらしい。
僕はその後、いとことしゃべることがなくなり海をみていたが、いとこの耳にすく微小な蝿のことを考えていた。いとこの耳で肉をたべ、汁をすすり、脳に卵をうみつけているのだ。
いとこは28番のバスでいいか確認してきた。


三つのドイツ幻想
冬の博物館としてのポルノグラフィー、セックスや性行為などという言葉は僕に冬の博物館を想像させる。冬の博物館はおおがかりなものではなく、展示してあるものもバラバラだ。柱時計のネジを巻くなど館内の開ける準備をして、自分の朝食を準備して、朝食と共に手紙の中身を確認する日課がある。手紙は水道料金の支払いや考古学の会合の通知と、博物館のお客さんからの苦情やはげましの手紙、それから博物館のオーナーからの手紙だ。オーナーからの手紙には展示品の配置換えや備品の交換などの指示が書かれている。オーナーの指示を何も考えず実行した後、僕は勃起しているかどうか確認する。そして、冬の博物館を開館する。
ヘルマン・ゲーリング要塞1983、ヘルマン・ゲーリングはベルリンの丘をまるごとくりぬいて中に要塞をつくり何を考えていたのだろう?中からコンクリートで固め、秘密の地下道をはりめぐらせ、SSとりました舞台が2ヶ月間たてこもれるだけの食料や弾薬を用意した。爆撃機も戦車も近寄れない難攻不落の要塞だったが、ロシア軍がせめてきたときにも要塞は黙ったままだった。制圧されたあと内部から火炎放射器で焼こうとしたがコンクリートにひびが入っただけだった。
彼は僕にベルリンの戦跡を細かく説明してくれた。ロシア軍とドイツ軍の弾痕の違いも説明してくれた。その後、夜にビヤガーデンに行き、明日ならも郊外のもっとすごい戦闘のあとの操車場に案内もできるし、女の子を紹介できるとも言った。でも、僕はビザの滞在期限がせまっていたので、フリードリヒシュトラッセ駅につかないといけないと断った。その後、ゆっくり歩いても15分あればSバーン駅へつける交差点で彼とは別れた。フリードリヒシュトラッセを北に向けて歩きながら、僕はヘルマン・ゲーリングが何を考えていたか考える。
ヘルWの空中庭園、僕が最初にヘルWの空中庭園に案内されたのは霧の深い11月の朝だった。その空中庭園は、空中庭園であることを別にすればどこにでもある3級品の庭園だった。ただ僕はヘルWの空中庭園を見たかっただけなのでがっかりすることもなかった。そして、ヘルWとお茶を飲んだ。空中庭園をもっと空中庭園らしくしたかったのだけど、あまり高くすると東ベルリンの兵士が過敏になり、サーチライトやマシンガンの銃口がずっと庭園を向いていることになる。もしも空中庭園が風圧の関係などで東ベルリンに流れるとスパイ罪を適用されて、生きて西ベルリンには戻れなくなる。だから、空中庭園を15センチしかあげることができなかったという。もっと安全な場所で空中庭園を高くしないのかと問うと、このクロイツベルクが友人もいて1番いいんだと言った。夏には空中庭園で毎日パーティをやるから夏に来なさいと言われた。


感想・レビュー
もちろん再読だからなのだけど、どれも読んだことがあると感じた。それをおいておいても村上春樹の話は同じような印象をうける。主人公が毎回僕で名前が分からないせいかも知れないし、でてくるビールやパスタなどの小道具が同じなせいかもしれない。
そして、毎回感じるのは虚無感。だから何という寂しさというか、あっけなさでもあるし。何か起きたはずなのに最後には全てが元にもどって何も起きなかったように感じてしまう。


今回で1番好きなのは「踊る小人」の話だった。どこがって言われるとちょっと説明しにくい。割りとめくらやなぎと眠る女も好きだった。
冬の博物館がセックスと結びつくのはよく分からないが、芸術だろうなと思う。そういうものだ。

フタマワリサキマワリ 相武紗季

きっかけ
なんか心が病んでいたのです。そして、かわいい子の笑顔が見たいなと思いまして、当時自分の中で抜群にかわいいと思っていた相武紗季のこの本を買ってしまったのです。今でも抜群にかわいいとは思います。当時は多分ブザービートというドラマで出演していた時で性格の悪い役でわりとキリッとした顔が多くて、そちらも魅力的だなと思っていました。
この本は定価で買いました


ネタバレ・あらすじ
TVガイド2008年4月〜2009年4月までの身の周りをつづったことのエッセイと写真のまとめです。半分以上が写真です。
32回分の記事にプラスして、ふた回りで24歳という等身大の仕事、プライベート、ライフスタイル、人間関係、未来についてのインタビューが載っています。


感想・レビュー
個人的なお気に入りは、「春モード、オン!!」「バレンタインデー」、あとは後半の浴衣姿。浴衣のしっとりした感じと笑顔のギャップが良い。でも、笑ってない顔も良い。

ミシン 嶽本野ばら

ミシン

ミシン

きっかけ
なぜか分からないけど、嶽本野ばらの本が5冊ほど100円であったので、ついまとめ買いしてしまいました。特に嶽本野ばらが読みたかったというわけじゃなくて、でも100円ならお得なんよね。


ネタバレ・あらすじ
世界の終わりという名の雑貨店
主人公の僕は、古いビルの一室をライター業の事務所として使っていた。しかし、大学生から続けていたアルバイトのライター業もデータばかりにこだわる雑誌の記事を書いたことから、仕事自体に疑問を持ちやめてしまった、だから、事務所を出て行こうとしたが、ビルのオーナーの消防署による取り壊し勧告対策のために、部屋にいてほしいというお願いからそのまま部屋で暮らすことになった。部屋は無料で貸してくれるが条件が1つだけあり、それが何かをお店をやってくれということだった。そして、雑貨屋「世界の終わり」がオープンする。
店の名前はVivienne Westwoodがオープンしたショップ「WORLDS END」をそのまま訳して「世界の終わり」にした。
資金もないので、今まで買い集めた骨董品などを商品として売ることにした。雰囲気をだすために、蛍光灯をはずしろうそくの明かりを用意し、BGMもシューベルトやバッハを用意した。
オープンして1ヶ月は暇だったが、規則正しく時間通りに開店し閉店をした。昔の知り合いのライターにお店の取材を受けてしまい、急に込みだしてしまった。しかし、すぐに客足は減ったが、誰も客が来ないという日はなくなった。それでも売り上げが伸びることもなく、貯金を切り崩しながら生活していた。


お店を始めてから1年が過ぎた頃、全身をvivienne westwoodに固めた君が店にやってきた。それから君は毎日店に来るようになり、何時間もいて最後に50円の紙石鹸を買って帰るようになった。店内で寝てしまうこともあって、そのときは申し訳ないのか紙石鹸を2つ買って帰るようになった。店の暗い明かりで分からなかったけれど、君の頬から首筋にかけては残酷なほどの黒い痣があった。
それから半年が過ぎ、「世界の終わり」を閉めないといけないことになった。ビルのオーナーが突然亡くなり、その息子がビルの管理を引き継ぎ、取り壊すことに決めたのだ。
閉店の近づいた12月後半、ようやく君に店をしめないといけないことを伝えることができた。しかし、君は何も言わなかった。そして雰囲気にのまれるように僕と君はキスをして、それから僕は君に「逃避行しないか」と言った。大きくうなずき口をぱくぱくする君を見て、初めて君が話すことができないことを知った。


店をたたむ準備をして、逃避行の支度金の100万円をつくった。君は全身vivienne westwoodでやってきた。一緒にデパートでマフラーを買った。それからJR線で京都駅から津和野駅を目指した。車内では君はお絵かき帳をとりだし、それで会話をした。君の過去の話。君はバレリーナとして踊りの発表会に出て誰よりもうまく踊ったが、観客が痣に驚いていたことですべてが決まってしまった。それからは目立つことをやめて1人で過ごすようになった。しかし、ある時父親の丁稚羊羹を買いに行った時にvivienne westwoodと出会ってしまった。親と自分の貯金通帳から40万円を降ろし、試着した服や小物を全て買った。何も望んではいけないと思っていた君もvivienne westwoodは親のお金を横領してでも諦め切れないものになった。そして、偶然行った「世界の終わり」も君にとって諦めきれない必要なものになった。
僕と君は津和野に着き、ホテルに泊まった。時間があれば2人は交わった。しかし、突然刑事が訪れ、僕は未成年誘拐として逮捕された。君は夜に実家に電話をかけていたらしい。君がしゃべれることを初めて知った。そして、2人は引き剥がされた。


それからまた半年が過ぎた初夏、君の母親が生気なく何もしないで生きていた僕を訪ねてきた。君は今、心の病で入院しているという。vivienne westwoodと出会った頃から病気は発症していて、どんどんおかしくなっていたという。病名は不安神経症。僕と会っていた時も、逃避行の時も薬を飲んでいたが、その薬がなくなってきていたので実家に電話をかけたのだった。
僕との逃避行から連れ戻された君の症状はどんどん悪化して、退行現象を起こしていた。夏になっても僕のマフラーを巻き、紙石鹸を毎日ならべているのだという。症状に改善を見えないので変化を起こすためにも、僕に君にあってほしいとお願いに来たのだ。ただ父親は僕を病気の原因と思っているので、父親のいない水曜日の午前中ということになった。
さっそく次の水曜日の午前中に会いに行った。君は僕を見つけると、今まで曇っていた瞳が焦点を結んだ。それから僕らは交わって、君が退行現象を起こしても変わっていないことを確認した。母親は、マフラーと紙石鹸以外に興味を持ったのは初めてだといい、これからも毎週水曜日に見舞いに来て欲しいといった。
それから半年の間、僕は毎週見舞いに訪れて交わった。君は母親に次に僕が見舞いに来るまでの日数を指で教えてもらい、指の本数が多いと悲しみ、指の本数が少ないと喜んでと反応するようになった。その交わりの最中にいつもはいないはずの父親が現れた。父親は怒り狂い、今度ここに来たら殺すと脅した。それから父親は仕事を休み、毎日監視するようになった。その監視に耐え切れなくなった君は、3週間後に自殺してしまった。


逃避行していたときの鞄から僕宛ての手紙があったので送ってくれた。手紙には、逃避行を決意させた雪と雪を見て幸せな気持ちになったことを伝えたいということ、僕のことが好きすぎて一緒にいると安心感で一杯すぎて失語症のようになってしまった、医者が心の病を治すためにすべて話せというのはおかしくて、心の病はかかえこんで死んでしまうのも仕方ない、この手紙を読むとき僕はどこにいて何をしているのでしょう、と。
君が臆病な気持ちと戦っていることは分かった。しかし、僕は自分の臆病さを認められず、全然戦うことをしていなかった。逃避行にしても未来をことを考えていなかったし、父親の監視からだってなんとか連れ出すこともできたはずだ。今、雪が降っていてその雪のすばらしさを伝えたくなった。その気持ちだけを大切にして生きていけば良かったということに今気づいた。


ミシン
主人公の私はとても乙女。自分自身で乙女と気づいたのは、アイドルや人気の男の子の話などの流行りものについていけず、吉屋信子尾崎翠、バッハやシューベルト中原淳一や中畠華宵など古いものにしか興味がもてないせいだった。祖母の持ち物だった雑誌でそれらを知り、そこからどんどんはまっていった。そして、古いものしか興味がもていない以外に困った性癖を発見してしまった。
それは自分がエスであることだった。同性にばかり興味をもってしまい、交換日記やお揃いのハンカチなどプラトニックに交わりたいのだった。しかし、私は外見的にはチビでデブでブスで、社交性もないなどで諦めていた。


高校に入って初めての秋に、たまたま見た音楽番組にゲスト出演をしているパンクバンド死怒靡瀉酢のボーカル、ミシンを見て自分の待ち望んでいた人だと確信した。人目で恋に落ち、ミシンの載っている雑誌を全て買い集めるようになった。その雑誌のインタビューでミシンはMILKというブランドの服しか着ない事を知る。それからもミシンはテレビでの露出を増やしていき、他のタレントのバッシングなどでマスコミによく取り上げられるようになった。
私はミシンのことを四六時中考えるようになった。ファンレターをだして近づこうかとも考えたけれど、それではいつまでたっても近づくことができない。進化論で生物が環境に適応していくことをヒントに、執念だけが私とミシンが近づくことを可能にしてくれると信じた。さらに前よりも意識的にミシンのことを考え、お百度参りも始めた。
そして、セカンドシングルが発売されてライブが開催されることになった。なんとかライブのチケットを入手した。少しでも素敵になりミシンに近づいて気づいてもらうために、MILKで服を買うことにした。それから3日に1度はお店に行き、ミシンが買っていたというアクセサリも買った。
運命のライブの日、全身をMILKの服にしてライブにいった。そして、前の子のミシンと竜之介の同棲の噂を聞いた。すばらしいライブに浸った後、そのまま帰るわけにもいかず、出待ちの集団に加わった。ミシンと竜之介がハイヤーに乗るときに、ミシンは私に気づいて「全身お揃いね」と話しかけてくれた。
そのライブの後は、さらに祈りを強くして、お百度参りを増やし、ミシンとエスになれるようにと願った。そのかいあってか、竜之介は交通事故で死んでしまった。ギターがいなくなったシドヴィシャスは新しくギターのメンバーの募集を始めた。


私は近づくチャンスがめぐってきたと思い、ギターを買い練習を始めた。しかし、急にうまくなるわけもなかったので、公園でバンドのデモテープを買い、自分の演奏として応募した。そして、一時選考に通ってしまった。
面接試験になり、ギターを弾いてと言われるが当然弾けるはずもなかった。追い返されそうになったけれど、ミシンが「今日もお揃いね」と声を掛けてくれ、さらにはギタリストは私にすると独断で決めてしまった。ギターも弾けないしルックスもダメだとプロデューサーは言うが、ミシンはそれならバンドをやめてわたしとライブハウスからやり直すと譲らなかった。
そういうわけで私は、シドヴィシャスのギタリストに決まってしまった。ギターのレッスンは受けるが、竜之介の追悼ライブには間に合わないので、サポートメンバーが入ることになった。
ミシンは、私にだけ優しくしてくれて、買い物に誘ってくれたりした。私はミシンに中原淳一竹久夢二を教えてあげた。ミシンは、今という時代にあわない私に同士という気持ちを抱いたのだという。


シドヴィシャスのライブのリハーサルの日、私はミシンに屋上に呼び出された。ミシンは私にどのくらいミシンを好きなのかきき、兄弟を殺せるくらい好きかときいた。そして、竜之介とミシンの関係を教えてくれた。恋愛関係などなく、実は生き別れの兄だったという。そして、竜之介のバンドで歌うようになり、竜之介のギターでしか歌えなくなった。竜之介が死んだ時点で、私も死んでしまったと。
そして、ミシンは泣いたあと、私にお願いをした。追悼ライブの最後の曲が終わったら、ギターで殴り殺して欲しいと。他の人に理由は分からなくても伝わらなくても、私はちゃんと殴り殺すことを誓いました。


感想・レビュー
ファッションやそのブランドの哲学を基に綺麗に話が構築されていると思う。ただそのブランドを知らなくて、ファッションにも興味が薄いので、イメージできない部分があった。ブランドとかが分かれば、さらに感情移入できたはずだと思う。ちょっともったいないことをしたと思うけど、こればかりは仕方がない。


過去にとらわれてばかりいる人たちの話という部分が気に入った。でも、本当の人間は未来への道を見つけていくべきなのかどうかとても迷う。僕は、過去にとらわれている方が好き。たとえ、それが辛くても。

日本進化論 2020年に向けて 出井伸之

日本進化論―二〇二〇年に向けて (幻冬舎新書)

日本進化論―二〇二〇年に向けて (幻冬舎新書)

きっかけ
時々新書を読みたくなるようになったのだけれど、最近の100円で売っている新書はおもしろそうなものはあらかた買ってしまった。少し無理して選んで買ってしまった感のあるこの本。
それでも、この本を買った理由は、著者の名前をなんだか聞いたことがある気がしたこと、2020年という未来に向けて書いている本であったこと、日本という国の未来について書いてあることだった。表紙裏の著者紹介を読み、名前に聞き覚えがあった理由がわかった。元ソニーCEOか。


ネタバレ・あらすじ
今、日本人は漠然とした不安を抱いている。それは今までの歴史を見てきても、農業社会から産業社会への変化で、貧富の格差などが広がる時期に起こっている。今の日本は産業社会から情報社会への変化で、悲観論に
とらわれている。これからの若者には、適度に楽観的になることによって、未来への希望を持って欲しい。


日本はアジアの中で、民主主義・資本主義が定着している異質な国である。その他のアジアの国は、中国・韓国はじめ社会主義ばかり。そして、アメリカ型の資本主義よりも、EUに加盟しながらも島国として一時期の停滞をはねかえしたイギリスに学ぶ部分が多い。
世界は、リアルな商品より、ヴァーチャルなサービスに移行していっているが、日本の強みであるモノづくりには十分なブランド力があるので、中東などに売れることを見ても、そんなに悲観する必要はない。スウェーデンの企業とソニー・エリクソンの成功例もあるように、世界の企業と組むことで生かしていくことができる。


日本のリスクには、高齢化、官僚主義、閉鎖社会、国内中心主義、エネルギー、環境問題があげられる。高齢化はいうまでもなく、少子高齢化のこと。官僚主義は、政府・大学・会社の結びつきが密接すぎて経済が阻害されている。閉鎖社会は、日本の資本主義の独自性、携帯電話などのシステムの独自性などがあげられ、まだ鎖国となっている部分が多いこと。国内中心主義は、日本語しか使えないこと、空港が深夜に閉まることなど、まだ日本を中心に考えて世界に目を向けていないこと。
経済のことでいうと、日本には上場企業が多すぎて、証券取引場が多すぎる。もっとまとめることによって、法律で守られていることで、トップという座で安心しているよりも、次の世代「21世紀型産業」のトップを狙っていくようにしたい。


世界では本当のネットワーク社会が始まりだしてきている。ソニーも得意のオーディオビジュアルからIT分野への進出を始めている。社会も、工業製品数を減らして効率をあげていく「秩序型社会」から、価値を持つものが情報やネットワークとなる「複雑系社会」へ移行していっている。携帯電話でも、昔は電話をできるという携帯電話のハードに価値があったが、今は携帯電話を通じて入手できる情報の方に価値が傾いている。これは半導体産業の発達による部分が大きいが、その成長もそろそろ限界に到達するので、さらに情報に価値がもたらされていく。


すべてがネットワークにつながることによって、2020年の社会は劇的に変わっていく。ハイブリッドカーから電気カーへなり、道路との情報のやりとりを行い自動運転をする。家も時間帯を通じて、夜は寝室が広くなったり、お客さんが来たときはリビングが広くなったりするなどのように、家作りの発想自体が変わっていく。量子コンピュータが登場して、検索エンジンや暗号解析が劇的に進む。変化が新産業をどんどん生み出していく。その中でどこかルールを壊して発展させていく人が必要。


日本という国家は、この先世界に対して、平和・環境・文化国家の宣言をしていくことが必要。平和国家としては、日本の存在感的にも戦争をせず、武力を持たないことを改めて宣言する。環境国家としては、日本にある自然をもっと前面におしだし、さらに政府からの援助も環境対策をしている国に対して多くしていくなどの選択が必要。文化国家としては、伝統的な歌舞伎や能の他にも、秋葉原を代表するオタク的な文化を発表していく。国家として成熟的には、政治、経済、文化の順に成熟していくので、日本はそれをもっと誇っても良い。
日本の政治も大幅に変更する必要がある。小泉首相に人気がでたように、最高権利者にもっと権限を集めCEO的にする。他も大会社の組織のように、国外担当と国内担当のそれぞれの大臣を1人おく。2院政を廃止して、選挙ごとに人数を減らすことで、生き残りをかけることにより優秀な人材が残るようにする。
経済的には、高い法人税を減らし、世界の国のようにもっと自由に勝負できる部分を増やす。日本は人口減少に向かっているので、新しい資本主義や循環型社会が必要になってくる。
学問的には、理系・文系という境界を取り払い両方を学んでいくようにする。どちらかの考え方だけではいずれ破綻する。
東京という年に集中しているものを地方に配分していく。東京に一極集中していると、災害に対するリスクにもなるし、各地方都市に分割することで、それぞれの地方都市にも特色をだしていくことができる。


感想・レビュー
とりあえず書かれたのが、2007年という昔だという認識で読まないといけない。正直、読み終えた第1印象からいくと、ソニーのCEOともなると考えるのは、会社のことだけじゃないなぁということだった。しかし、これからの日本の政治の面ではおもいっきり、自分の成功した大会社的な組織が良いのではないかというのは、CEOらしいと思う。


個人的な生活でも未来が見えないのは、国家としての日本の未来が見えないことにもつながるのかなとは思った。餓死するとかそんなレベルに全然いっていないのに、失業者が増えたとか妙に暗いニュースばかり聞く。まだまだ日本は底辺じゃないはずなんだよね。ただニートのように働く気がない人たちが増えていくのも、日本の未来のせいかなぁとも思う。だから、全部日本のせい、政治の所為で甘えられても困る。


日本の1番の問題は、国内主義なのかと思った。日本を中心に考えているわりに、会談などでは全然日本のことを主張できずにいる。日本を中心に考えているが、長い目で見て日本に有益なことができていないと思う。日本語や携帯の独自性も、海外の国が日本に進出しにくいとか日本が相手にされない原因をつくっている。確かに未だに鎖国だといえると思う。


オタク的な文化を日本の文化としてだしていくことに、恥ずかしく抵抗があった。しかし、確かに文化というのは産業として最後に発達するのは、国家として余裕のある証でもあるし、誇りに思ってもいいのは納得した。オタク文化を目当てで日本を訪れる海外の旅行者も増えているのが現状だし。伝統的な文化としても、サムライ、忍者とか未だに言われているのも発展がなくてどうかとは思うが、もうちょっと他の文化が強くなるとよかったと思う。


でも、1番感じたのは、プロローグで書いてあった、「適度に楽観的であれ」でした。

数えずの井戸 京極夏彦

数えずの井戸

数えずの井戸

きっかけ
ついにブログタイトルとは全く違う新品で買った本の紹介となってしまった。定価2000円。今までのような中古本なら19冊は買うことができる。でも、それだけの価値があると信じることにする。


京極夏彦は、10年程前に「狂骨の夢」を読んで以来、バイブル的な扱いで、僕にしては珍しく新作を唯一通常の本屋で買っている作家である。この人の新作がたくさんでるのはうれしいのだけど、最近はいろんな本が出すぎて、さすがに買い控えている。そこで今では、百鬼夜行シリーズ(京極堂、榎木津、関口など)と巷説百物語シリーズ(又市、おぎん、治平など)の2シリーズだけは、新作で買うようにしている。


今回の「数えずの井戸」は、どちらのシリーズでもないのだけど、「笑う伊衛門」、「覘き小平次」などと同じように、江戸時代の怪談を新解釈で書いた小説で、巷説百物語の又市などが登場しているので買うことにした。


ネタバレ・あらすじ
「数えずの井戸」は、江戸時代の怪談「番町皿屋敷」のストーリーを元に、新解釈で書き直している。


番町青山家屋敷跡の井戸には、夜な夜な幽霊がでるという噂がたった。幽霊は、皿を9枚まで数え、1枚足りぬ、恨めしいという言葉を吐く。この幽霊がでるようになった理由は、人それぞれが違う理由を語った。当主青山播磨が腰元の菊に惚れてしまったことに嫉妬した奥方によってはめられ、手討ちになった菊が恨み言を吐いているとか、腰元の菊が10枚揃いの家宝のお皿を割ってしまった罰で手打ちになり恨み言を吐いているとか、菊の親が盗人で青山家に捕まえられたことで逆恨みして、親子2代で祟っているとか。
どの理由も本当のようだが嘘っぽく、真実は知れなかった。菊が幽霊としてお皿を数えている本当の理由を知る者は誰もいない。なぜなら、菊も播磨も青山家使用人もその親族達も、事情を知る者は青山家でみんな死んでしまったからである。


直参旗本青山家当主、青山播磨は幼少の頃から、常に何かが欠けている焦燥感を味わっていた。数を数えてそれで全部だといわれても、本当はもっとあるのではないかという欠落感。それは、火付盗賊改め役の父青山鉄山が死に、自分が当主になっても消えることはなかった。庭で見つけた陰気な井戸に欠落感の正体を感じる。しかし、それが分かったところで日常の欠落感は変わらないし、これからも変わらないのだ。それでも、伯母は青山家のために次期老中大久保家の娘との縁談を進める。たいした興味もわかないので、強く否定もできぬまま、縁談は成る方向で進んでいく。欠落を抱えたまま。


いろんな奉公先で失敗ばかりしている娘、菊がいる。菊は幼い頃から、莫迦だと言われてきた。何をやらせても遅く、失敗も多かった。それは先を見すぎて最良の手を考えている間に時は進んで、結局方法を選べないことで最悪の結果になるからである。それをいいことに奉公先の別の人間に濡れ衣をきせられることも多かった。
今回も、そういう失敗からお店から暇をだされてしまった。数を数えると数え違いや抜かしがないか気になり物事が手につかなくなる。だから、数を数えずにすむ空は好きだった。大好きな空を見上げたまま、実家にたどり着くと母の静と御行の又市がいた。又市は、菊が奉公していたお店を紹介した人の頼みでいろいろ調べていた。今回の菊が暇をだされた理由は、菊の器量があまりに良かったので、女将さんがやきもちを焼いて追い出したというのが真相だった。


青山家側用人、柴田十太夫は、褒められるためなら何でもする男だった。幼い頃は、重いものを持つことで褒められたし、褒められるために嫌いな食べ物で笑って食べた。今も、当主青山播磨に褒めてもらうためにがんばっているが、全然褒めてもらえない。先代鉄山はよく褒めてくれたので、満ち足りていた。そこで、自然に叱られることもあるが、それでも褒めてくれる伯母の言うことを聞くようになった。そして、伯母の命令で青山播磨の縁談のために、家宝の皿を探すことになった。
その家宝探しを始める時に、庭に又市が現れた。又市に菊の奉公先の世話を頼んだのが、柴田十太夫だった。また菊が暇をだされたことを報告され、次の奉公先を頼もうとするが、又市はまた同じ様な結果になると注進し、あとは十太夫がなんとかすると答えた。そして、又市はもう菊の件から手を引くことになる。


遠山主膳は、旗本の次男坊で部屋住みの男だった。自分自身も含め、この世の何もかもが嫌いで馬鹿馬鹿しかった。主膳は、播磨と同門の剣道場に通っていて、播磨の使用人の権六などと白鞘組という徒党を組んで町人を蹴散らしたりもしていた。その権六が、播磨の縁談の話を知らせにきて、播磨は家を継ぎ嫁をとろうとすることで、どんどん腑抜けになっていくという。播磨に自分と同じものを感じていた播磨が何も嫌がらずに為されるがままになっていくことが気に入らないという。怒りも笑いもせず、縁談も嫌といわない播磨が。


米搗きの三平という男がいる。祖父、父と米搗きをずっとしているので、そこに疑問もなく、ただいつも数を数えながら餅をついている。数はどこまでいっても終わることはなく、いつのまにか数が分からなくなって、それで最初から数えなおしている。それでも、数を数えなくては餅をつけない、杵をふるえない。
その疑問をもたず、欲を持たず、何も楽しみを知らない、考えないまま生きている三平を心配している徳次郎という男がいる。徳次郎は放下師として芸人で食いつないでいる。三平の暮らしを見ていると、昔の自分が重なり三平をなんとか他の世界にだしてあげたいと世話を焼いている。餅つきの暮らし以外考えたことがなく、度胸とかそういうものも分からないが、江戸をでたくないという。自分では気づいていないが、徳次郎は、三平は幼馴染の菊のことが好きなのだろうと思い、事によっては仲人口もやるという。それでも、三平は菊をそういうふうに考えたことがないし、嫁をとっても養えないので分からないという。


次期老中の娘、大久保吉羅がいる。吉羅は欲しいものはなんでも手に入れてきた。しかし、わがままなわけではなく、絶対に手に入らないものは欲しくならなかった。ただ反面、手に入れることができるのに手に入れないことはとてつもなく嫌だったし、莫迦だと思った。
吉羅は、青山播磨との縁談をし、青山播磨が欲しくなった。それは惚れたと気に入ったとかいうよりは、物を欲しいという気持ちに近い。他の人々のように遜ったり媚びたりしない、素っ気無い態度がよかった。しかし、吉羅も武士の娘ということで婚姻が気持ちだけではどうにもならないことを知っている。旗本として各の低い青山播磨では、父にとって、大久保家にとって利があるかどうかが大事だった。父は、青山家の家宝の姫谷焼の10枚の絵皿がほしいといった。これは珍しいもので現老中に献上すれば大久保家の出世の役に立つという代物である。青山家の伯母との話では、家宝の皿は現在捜索中であるという。吉羅は、家宝の皿も播磨も手に入れることを決め、見つからない家宝を皿を自ら探すために、青山家に嫁ぐ前に住み込ませてもらうことをなった。


こうして、播磨の婚礼は決まった。来月になれば、臨時の火役もつくことが大体決まっている。伯母はその前に縁談をまとめてしまおうとしている。青山家は大久保家より格は下なので、断る理由もなく、今更相談すべきこともないはずだが伯母は今日も来るという。十太夫の探している家宝の皿がまだ見つからないらしい。広い屋敷ではないから、まだ見つからないのなら、それはないのだと播磨は思っている。見つからないほうがいいとも思っている。
欠落感を埋めるように播磨は庭の井戸を見ることが習慣になった。庭の井戸から吹く風は、その瞬間だけ播磨の欠落感を忘れさせてくれた。そして、伯母の相談事から逃避するために出掛けようとすると、権六に声を掛けられた。白山社の境内で遠山主膳が待っているという。
播磨は、白山社で遠山主膳に会った。そこで主膳に縁談や、白鞘組として行動しないこと、最近は稽古にもでないことを尋ねられる。特に意味はないと播磨は言う。自分と同じ種類のはずの播磨が、何かにしたがっていることが気に入らないらしい。愉しくないのにそれをしているのが気に入らないという。愉しくないなら全て壊してしまえ、欠落感をなくす術は全て壊すことだと主膳は言う。


菊は、母の静から三平と結婚しないかと言われた。三平とは縁があるのだという。だから、結婚するのも悪くない、今なら前のお店からもらった詫び賃があるから、2人の生活を始めるくらいはできるだろうという。後は自分で決めろといわれ、菊は外を歩くことにした。
空を見ながら歩いていると、いつの間にか知らない池のほとりに着いた。その池には相談事から逃避していた播磨がいた。播磨は菊に、石地蔵の数を尋ねた。何度も数えても足りない気がすると。菊は、すぐにぞれですべてです、数えなくてもそれで全部ですと。播磨は少し安心して、逃避していもどうにもならないので、戻るという。


太夫は何日も皿を探しているが、一向に見つからなかった。そこで、前の側用人の槙島権太夫に何か知らないか聞きにいくことにした。権太夫は、皿の在り処は、拝領の品ではないので庫裏、つまり台所だという。この皿は青山家の井戸からの陰気を防いでいる神品だという。神品であり家宝であるので大事にしていたが、皿よりも大事な命などもないので、飾るのではなく皿を使えということから、庫裏に置かれるようになったとのこと。
太夫は、父から唯一申し送りを受けたことに、菊と静の面倒をみるということがあった。静は、先代青山鉄山がつかまえた盗賊の妻で無実なのだが、親類も罪にとわれるのは酷いことなので、逃がしてそのあとの面倒を全てみよと伝えられていた。そのことについても、権太夫に問いただしてみた。静は、罪に問われるときに消えてしまったという。権太夫は知らなかったとこととはいえ、父の遺命に従い御定法に背いてしまったことになる。


主膳の元に、また権六がやってきた。主の播磨の気が抜けていて、青山家はもうつぶれてしまうだろうという。皿がみつからなくて、十太夫は腹を切りそうだし、それでも、播磨は何もしようとしない。どうもいい振りをしている。それを聞き、播磨が壊さないのなら、自分が壊してやろうと思ったとき、主膳には何かが漲った。


三平がいつものごとく餅をついていると、菊が家にお侍がやってきたと呼びに来た。菊の家に行くと、そこには十太夫がいた。今までは父の遺命で何も聞かずに静と菊の世話をしてきたが、権太夫の話から気になって仕方なかった。静の方は、十太夫が全て知って世話をしれくれていると思っていてたようだ。
静は、夫であった菊の父親の話をする。盗賊のようなすごいことをしているとは知らず、せこいゆすりなどをやっていると思い、時々会いに来るだけだったという。でも、預け先に困っていた子供の菊を世話を頼めるのは静しかおらず、だから静が育てていた。それでも、静は菊をかわいく思い、ずっと育ててきた。しかし、あるとき菊の父親は、関係のない町人の三平の父親を殺し、青山鉄山に捕まった。そこで鉄山のお慈悲で十太夫に逃がされていると思い、今の長屋で暮らしていた。この長屋は父親を殺された三平がいて、それも縁で三平を育てることで償いと思っていたという。ことの仔細を知ってしまったので十太夫さんもこのままではいけないだろうと、静は自分が奉公にでることで罪のちゃんとして償いをするというが、それを菊がとめた。菊はすべては自分のせい、自分が静の代わりに奉公にでることで、みんなが今までと変わらない暮らしができるからという。十太夫は、菊を青山家に奉公させることにした。


皿はまだ見つからない。吉羅は青山家に住み込むようになったが、客人という扱いで何もさせてもらえないままでいた。毎日、十太夫は明日には見つけると、吉羅に謝りに来ていた。播磨は、家宝の皿も出世も縁談も興味がなさそうにしているという。十太夫に皿を探すことを手伝わせてもらうように、吉羅は頼むが主に相談しないといけないとはぐらかされてしまう。そこに菊がお茶をもってやってきた。その菊にも吉羅は播磨同様に相手にされていない感覚を味合わされた。気晴らしに庭に出ると、遠山主膳がいて、そこで吉羅は主膳に犯された。


客間に遠山主膳が通されていたはずであったが、播磨は会いたくなかった。その後に槙島権太夫が訪れた。この間に遠山は、吉羅と会っていたことになる。槙島からは、十太夫は気づいているようだがとの前置きがあり、父鉄山のしたことが語られた。鉄山のついていた火付盗賊改役は大変で密偵として雇っていた男がいるという。これが菊の父親だった。よくない財を成したものから、1度だけその密偵をつかい盗みを働かせていた。これが1度だけのつもりだったのだけど、密偵の方が義賊きどりになり、それ以降も武家屋敷などに忍び込み盗みを続けていた。そのお金は青山家に隠された。しかし、町奉行所が菊の父親に目をつけた、怯えて逃げるときに三平の父親を殺してしまった。そこで、さすがにかばいきれなくなってしまった。しかし、鉄山が静や菊に罪はないので逃がそうとしているときに、静たちは消えてしまった。
その時に、庭から悲鳴が聞こえた。着物の乱れた吉羅とそれに驚き瀬戸物を落としてしまった菊がいた。


吉羅は庭に蛇がいたという。駆けつけた十太夫は今まで1度も蛇など見たことがないという。そこで、蛇のでたことを責められた十太夫は、家内のことが滞ってまで皿探しをするなと播磨に止められてしまった。菊には、ただ割った瀬戸物の片づけが命じられただけだった。そこに青山家の腰元の仙が来て手伝ってくれた。仙は、吉羅と主膳の一部始終を見ていて、吉羅は播磨様にふさわしくないという。あの女は青山家をつぶす。しかし、仙は皿は見つからないので、2,3日で吉羅も青山家をでていくという。
その後、廊下を隅々までふく菊を播磨がみつけ、池で会ったことと菊の素性について話す。


太夫は、井戸の周りに蛇がいないか探していた。そこで、足袋の跡などを見つけ、客間に通したもののいなくなっていた主膳について思い当たる。そこへ仙が声を掛けて、2匹の蛇についての話がある、ここでは話せないので、社に来て欲しいといって消えた。
そこへ吉羅の侍女がやってきて、先ほどのことを詫びた。そして、家宝の皿がないと縁談がかなわないという実情を話した。十太夫は皿探しを播磨から止められたが、吉羅が探すのなら問題ないはずなので、探すためにも菊を下女につけてほしいとお願いにきた。返事のできぬまま、社に行った十太夫は、仙から吉羅と主膳が交わっていたことを聞き、吉羅は青山家に災いをなすので追い出して欲しいと言われた。


その少しあと、社では主膳と権六がまた会っていた。あれだけの騒ぎがあったのに、青山家も播磨も何も変わらないらしい。何も変わらぬことに怒った主膳が社を壊すと、そこにはなんと青山家の家宝の皿があった。誰かが隠したのだ。青山の縁談を良いと思わぬ者がいるらしい。盗む出して困らせてもいいが、ここに隠した者は戻すつもりで何らかの意図があるのだろう。だからそれを見るほうがおもしろいという。そして、いつか主膳が皿を割るという。動きがあれば知らせよと権六に命令して、主膳は社を後にした。


菊を好きだという気持ちに気づいてしまった三平は、青山の屋敷に走って向かっていた。しかし、米搗きが屋敷に入ることはかなわず、番兵に打ち据えられてしまった。そこを権六と主膳に捕まった。脅され菊の素性を話してしまってから、まずいことに三平は気がついた。主膳はそれを聞き、青山家が壊れることと自分が壊すことを感じた。


吉羅は、播磨が自分よりも菊を気にかけていることが気に食わない。さらに菊に欲しいものを問うたところ、何もいらないと答えたことがさらに憎らしく思うきっかけになってしまった。そこへ、吉羅の布団に屑針が仕込まれている事件が起きた。菊は本当はやっていないのだが、謝ってしまった。菊が自分のまかされた仕事を他の人がやったとしても、自分がやるべきことだったなら罪を認めるように言われた。
さがった菊の後に、侍女がやってきて皿が吉羅が歓迎されていないことをいう。針の件にしても、皿がみつからないことも播磨が邪魔をしているのではないかという。
次の日の朝餉で、吉羅は自分で飯に針を入れて、それをしたことを菊に認めさせた。昨日の布団の針の件も認めさせた。


播磨は、その針の件で騒いでいることが分からないでいた。十太夫が菊を必死にかばったが、菊は侍女に庭の柳に張り付けにされて、制裁を受けていた。十太夫が信じるなら播磨も菊を信じることにし、菊の制裁をやめさせようとする。しかし、菊は自分がやっていないにも関わらず、他のえらい人たちが困るのが嫌で自分が悪いことにして場を収めようする。ただ奉公先のお店のように収まることはなかった。播磨がやっていないからと縄をとこうとすると、吉羅がそれをとめ、自分より菊を気に掛けることに対して怒る。このことを不問にするには、家宝の皿がほしいと吉羅は言う。皿がなければ厳しい処罰をすると。


そのまま、縛り付けられたまま菊は空と星のうつる井戸を見ていた。その後ろに仙が現れる。仙は助けてくれようとするが、侍女が近くによってきて、家宝の皿について菊に問いただした。見つからなければ、菊はどうなるかわからないという。仙はそれを聞き、皿の在り処を知っているといった。吉羅の行いを言おうとするところへ、吉羅本人もやってきた。家宝の皿はあげるから青山家をでていけと仙は言った。菊のために部屋を探していた播磨も皿はなかったと吉羅に知らせるためにやってきた。皿を隠した仙が、吉羅と主膳のことを話そうとしたときに、仙は後ろから家宝の皿を持って現れた主膳に切られてしまった。
皿のために仙が切られ、皿を悪いと思った菊は、皿を奪った。


この時に、起こったことは後から又市と徳次郎が語ったとおりである。
徳次郎は三平と会っていて、そこに青山家の使用人と静がきて、菊が手討ちなったから遺体を引取りにこいといわれた。青山家に行くと、腰元(仙)と吉羅と菊が死んでいた。主膳が血刀を持っていたように、播磨も血刀を持っていた。菊が家宝の皿をうばったので、決まりどおり手討ちにしたという。十枚揃いの皿を三平に渡し数を数えさそうとしたが、三平は数えることができなかった。三平は怒り、人死にがでないように皿の箱を敷石になげつけ、井戸に放り込んだ。主膳はそれを見てすっきりし、播磨ができなかったことを三平がしたことを喜び、初めから壊しておけば何も怒らなかったはずだと言った。それに怒った十太夫が主膳に切りかかったが、逆に斬り伏せられた。しかし、それでも動じない播磨をみて、壊れていないことに怒り、吉羅の腰元2人を殺し、そして皿の数だけ壊してやると、三平も殺した。三平は井戸に吸い込まれていった。播磨はようやく主膳と戦うことになるが、その前に家来を全て切り殺した。主膳を殺したあと、静に菊のことと菊の父親を殺したことを詫びた。そして、欠落感をずっと感じていたが、欠けていたものなど初めからなかったことを教えてくれたのは菊だったと言った。菊にも詫びた。ただ、静は恨みますると一言いい、菊の亡骸を抱えて井戸に身を投げた。
播磨は、最後にまだ生きていた徳次郎に後始末を頼んだ。すべては播磨の乱心で家臣が死んだこと、全て播磨が悪いのだと伝えてくれと。欠けたものは部屋にあるから使ってくれとも言われた。その後、播磨は青山家を飛び出し、町奴に斬りかかる逆に殺されてしまった。もちろん死ぬつもりだった。生き残った小姓などには、播磨の部屋にあった盗んだ金の残りを与え、口止めをした。その金の下から、皿が1枚でてきたという。


これが悲しかったし、辛かった徳次郎は、あったことをそのまま、自分の術を使い、再現していたのだ。静の気持ちも、三平の気持ちも、菊の気持ちのそのままに。だから、いくつもの怪事の噂が流れていたのだ。
でも、もう誰も恨んでいないだろうと、又市は井戸に最後の1枚を投げ入れて蓋をした。


感想・レビュー
どこまでも鬱々するという感想が、アマゾンのレビューでも多かったけれど、読後の正直な感想はやりきれないだった。笑う伊衛門に通じるが、この又市の巷説以外のシリーズがやりきれないものが多い。誰が悪かったわけでもなくて、誰かが誰かを思う気持ちが、少しずつ現実に影響をして悪いほうに流れていってしまって、最悪の結果になってしまったとしかいえない。
しかも、今回は、又市も徳次郎もほとんど登場せず、仕掛けは何もなかった分、ほんの少しの救いもなかった感じがする。


鬱々するという部分は、播磨、主膳、三平、菊、吉羅、十太夫の性質の説明のせいだと思う。でも、それは誰でも多かれ少なかれ持っている部分だと思う。誰か1人には当てはまってしまいそうな怖さもある。僕は、あえていば播磨なのか。
ただどの人も明日とかに未来に対する不安や諦めが、読者の心すらひきずってしまうのだと思う。誰もが取り込まれそうになると思う。気分が落ち込んでいるときに読んじゃいけない感じ。


でも、やっぱり最後の決着を読んでしまうと、悲しいとしかいえない。少しでもタイミングや歯車が他のずれ方をすればこうならなかったはずなのにと。徳次郎の気持ちがよく分かる。幽霊にでもしてあげなければいけなかったのだと思う。