ミシン 嶽本野ばら

ミシン

ミシン

きっかけ
なぜか分からないけど、嶽本野ばらの本が5冊ほど100円であったので、ついまとめ買いしてしまいました。特に嶽本野ばらが読みたかったというわけじゃなくて、でも100円ならお得なんよね。


ネタバレ・あらすじ
世界の終わりという名の雑貨店
主人公の僕は、古いビルの一室をライター業の事務所として使っていた。しかし、大学生から続けていたアルバイトのライター業もデータばかりにこだわる雑誌の記事を書いたことから、仕事自体に疑問を持ちやめてしまった、だから、事務所を出て行こうとしたが、ビルのオーナーの消防署による取り壊し勧告対策のために、部屋にいてほしいというお願いからそのまま部屋で暮らすことになった。部屋は無料で貸してくれるが条件が1つだけあり、それが何かをお店をやってくれということだった。そして、雑貨屋「世界の終わり」がオープンする。
店の名前はVivienne Westwoodがオープンしたショップ「WORLDS END」をそのまま訳して「世界の終わり」にした。
資金もないので、今まで買い集めた骨董品などを商品として売ることにした。雰囲気をだすために、蛍光灯をはずしろうそくの明かりを用意し、BGMもシューベルトやバッハを用意した。
オープンして1ヶ月は暇だったが、規則正しく時間通りに開店し閉店をした。昔の知り合いのライターにお店の取材を受けてしまい、急に込みだしてしまった。しかし、すぐに客足は減ったが、誰も客が来ないという日はなくなった。それでも売り上げが伸びることもなく、貯金を切り崩しながら生活していた。


お店を始めてから1年が過ぎた頃、全身をvivienne westwoodに固めた君が店にやってきた。それから君は毎日店に来るようになり、何時間もいて最後に50円の紙石鹸を買って帰るようになった。店内で寝てしまうこともあって、そのときは申し訳ないのか紙石鹸を2つ買って帰るようになった。店の暗い明かりで分からなかったけれど、君の頬から首筋にかけては残酷なほどの黒い痣があった。
それから半年が過ぎ、「世界の終わり」を閉めないといけないことになった。ビルのオーナーが突然亡くなり、その息子がビルの管理を引き継ぎ、取り壊すことに決めたのだ。
閉店の近づいた12月後半、ようやく君に店をしめないといけないことを伝えることができた。しかし、君は何も言わなかった。そして雰囲気にのまれるように僕と君はキスをして、それから僕は君に「逃避行しないか」と言った。大きくうなずき口をぱくぱくする君を見て、初めて君が話すことができないことを知った。


店をたたむ準備をして、逃避行の支度金の100万円をつくった。君は全身vivienne westwoodでやってきた。一緒にデパートでマフラーを買った。それからJR線で京都駅から津和野駅を目指した。車内では君はお絵かき帳をとりだし、それで会話をした。君の過去の話。君はバレリーナとして踊りの発表会に出て誰よりもうまく踊ったが、観客が痣に驚いていたことですべてが決まってしまった。それからは目立つことをやめて1人で過ごすようになった。しかし、ある時父親の丁稚羊羹を買いに行った時にvivienne westwoodと出会ってしまった。親と自分の貯金通帳から40万円を降ろし、試着した服や小物を全て買った。何も望んではいけないと思っていた君もvivienne westwoodは親のお金を横領してでも諦め切れないものになった。そして、偶然行った「世界の終わり」も君にとって諦めきれない必要なものになった。
僕と君は津和野に着き、ホテルに泊まった。時間があれば2人は交わった。しかし、突然刑事が訪れ、僕は未成年誘拐として逮捕された。君は夜に実家に電話をかけていたらしい。君がしゃべれることを初めて知った。そして、2人は引き剥がされた。


それからまた半年が過ぎた初夏、君の母親が生気なく何もしないで生きていた僕を訪ねてきた。君は今、心の病で入院しているという。vivienne westwoodと出会った頃から病気は発症していて、どんどんおかしくなっていたという。病名は不安神経症。僕と会っていた時も、逃避行の時も薬を飲んでいたが、その薬がなくなってきていたので実家に電話をかけたのだった。
僕との逃避行から連れ戻された君の症状はどんどん悪化して、退行現象を起こしていた。夏になっても僕のマフラーを巻き、紙石鹸を毎日ならべているのだという。症状に改善を見えないので変化を起こすためにも、僕に君にあってほしいとお願いに来たのだ。ただ父親は僕を病気の原因と思っているので、父親のいない水曜日の午前中ということになった。
さっそく次の水曜日の午前中に会いに行った。君は僕を見つけると、今まで曇っていた瞳が焦点を結んだ。それから僕らは交わって、君が退行現象を起こしても変わっていないことを確認した。母親は、マフラーと紙石鹸以外に興味を持ったのは初めてだといい、これからも毎週水曜日に見舞いに来て欲しいといった。
それから半年の間、僕は毎週見舞いに訪れて交わった。君は母親に次に僕が見舞いに来るまでの日数を指で教えてもらい、指の本数が多いと悲しみ、指の本数が少ないと喜んでと反応するようになった。その交わりの最中にいつもはいないはずの父親が現れた。父親は怒り狂い、今度ここに来たら殺すと脅した。それから父親は仕事を休み、毎日監視するようになった。その監視に耐え切れなくなった君は、3週間後に自殺してしまった。


逃避行していたときの鞄から僕宛ての手紙があったので送ってくれた。手紙には、逃避行を決意させた雪と雪を見て幸せな気持ちになったことを伝えたいということ、僕のことが好きすぎて一緒にいると安心感で一杯すぎて失語症のようになってしまった、医者が心の病を治すためにすべて話せというのはおかしくて、心の病はかかえこんで死んでしまうのも仕方ない、この手紙を読むとき僕はどこにいて何をしているのでしょう、と。
君が臆病な気持ちと戦っていることは分かった。しかし、僕は自分の臆病さを認められず、全然戦うことをしていなかった。逃避行にしても未来をことを考えていなかったし、父親の監視からだってなんとか連れ出すこともできたはずだ。今、雪が降っていてその雪のすばらしさを伝えたくなった。その気持ちだけを大切にして生きていけば良かったということに今気づいた。


ミシン
主人公の私はとても乙女。自分自身で乙女と気づいたのは、アイドルや人気の男の子の話などの流行りものについていけず、吉屋信子尾崎翠、バッハやシューベルト中原淳一や中畠華宵など古いものにしか興味がもてないせいだった。祖母の持ち物だった雑誌でそれらを知り、そこからどんどんはまっていった。そして、古いものしか興味がもていない以外に困った性癖を発見してしまった。
それは自分がエスであることだった。同性にばかり興味をもってしまい、交換日記やお揃いのハンカチなどプラトニックに交わりたいのだった。しかし、私は外見的にはチビでデブでブスで、社交性もないなどで諦めていた。


高校に入って初めての秋に、たまたま見た音楽番組にゲスト出演をしているパンクバンド死怒靡瀉酢のボーカル、ミシンを見て自分の待ち望んでいた人だと確信した。人目で恋に落ち、ミシンの載っている雑誌を全て買い集めるようになった。その雑誌のインタビューでミシンはMILKというブランドの服しか着ない事を知る。それからもミシンはテレビでの露出を増やしていき、他のタレントのバッシングなどでマスコミによく取り上げられるようになった。
私はミシンのことを四六時中考えるようになった。ファンレターをだして近づこうかとも考えたけれど、それではいつまでたっても近づくことができない。進化論で生物が環境に適応していくことをヒントに、執念だけが私とミシンが近づくことを可能にしてくれると信じた。さらに前よりも意識的にミシンのことを考え、お百度参りも始めた。
そして、セカンドシングルが発売されてライブが開催されることになった。なんとかライブのチケットを入手した。少しでも素敵になりミシンに近づいて気づいてもらうために、MILKで服を買うことにした。それから3日に1度はお店に行き、ミシンが買っていたというアクセサリも買った。
運命のライブの日、全身をMILKの服にしてライブにいった。そして、前の子のミシンと竜之介の同棲の噂を聞いた。すばらしいライブに浸った後、そのまま帰るわけにもいかず、出待ちの集団に加わった。ミシンと竜之介がハイヤーに乗るときに、ミシンは私に気づいて「全身お揃いね」と話しかけてくれた。
そのライブの後は、さらに祈りを強くして、お百度参りを増やし、ミシンとエスになれるようにと願った。そのかいあってか、竜之介は交通事故で死んでしまった。ギターがいなくなったシドヴィシャスは新しくギターのメンバーの募集を始めた。


私は近づくチャンスがめぐってきたと思い、ギターを買い練習を始めた。しかし、急にうまくなるわけもなかったので、公園でバンドのデモテープを買い、自分の演奏として応募した。そして、一時選考に通ってしまった。
面接試験になり、ギターを弾いてと言われるが当然弾けるはずもなかった。追い返されそうになったけれど、ミシンが「今日もお揃いね」と声を掛けてくれ、さらにはギタリストは私にすると独断で決めてしまった。ギターも弾けないしルックスもダメだとプロデューサーは言うが、ミシンはそれならバンドをやめてわたしとライブハウスからやり直すと譲らなかった。
そういうわけで私は、シドヴィシャスのギタリストに決まってしまった。ギターのレッスンは受けるが、竜之介の追悼ライブには間に合わないので、サポートメンバーが入ることになった。
ミシンは、私にだけ優しくしてくれて、買い物に誘ってくれたりした。私はミシンに中原淳一竹久夢二を教えてあげた。ミシンは、今という時代にあわない私に同士という気持ちを抱いたのだという。


シドヴィシャスのライブのリハーサルの日、私はミシンに屋上に呼び出された。ミシンは私にどのくらいミシンを好きなのかきき、兄弟を殺せるくらい好きかときいた。そして、竜之介とミシンの関係を教えてくれた。恋愛関係などなく、実は生き別れの兄だったという。そして、竜之介のバンドで歌うようになり、竜之介のギターでしか歌えなくなった。竜之介が死んだ時点で、私も死んでしまったと。
そして、ミシンは泣いたあと、私にお願いをした。追悼ライブの最後の曲が終わったら、ギターで殴り殺して欲しいと。他の人に理由は分からなくても伝わらなくても、私はちゃんと殴り殺すことを誓いました。


感想・レビュー
ファッションやそのブランドの哲学を基に綺麗に話が構築されていると思う。ただそのブランドを知らなくて、ファッションにも興味が薄いので、イメージできない部分があった。ブランドとかが分かれば、さらに感情移入できたはずだと思う。ちょっともったいないことをしたと思うけど、こればかりは仕方がない。


過去にとらわれてばかりいる人たちの話という部分が気に入った。でも、本当の人間は未来への道を見つけていくべきなのかどうかとても迷う。僕は、過去にとらわれている方が好き。たとえ、それが辛くても。