海辺のカフカ(上・下) 村上春樹

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈下〉

海辺のカフカ〈下〉


きっかけ
村上春樹の本はけっこう読んでいる。最近では、中古の100円の棚に村上春樹が並んでいることが少なくなってきた。だから、この「海辺のカフカ」もさすがに100円とはいかなかったが、150円で買った。上下巻で300円で買えたのは、かなりお得だったのではなかろうか。


ネタバレ・あらすじ
主人公の田村カフカ(偽名)と、ナカタさんという老人の章が交互にあり、話がすすんでいく。2人はだんだん近づいていき、物語が交わるかというところまで来て、かすめるだけで終わり、2人が直接会うことはない。


主人公は田村カフカ。父親だけに育てられ、15歳の誕生日に家出をする。家出をするにあたり、父親の書斎からお金とナイフなどを盗み出し、体を鍛えたりなどの準備も怠らなかった。行き先はただ四国と決めていて、高松への夜行バスに乗る。バスでさくらという年上の女性と知り合う。
高松に着いた後は、あらかじめ予約してあったホテルに泊まり、近くのジムと図書館を往復する規則正しい生活をする。ある日、気がつくと胸を誰かの血で染めた状態で神社にいた。その前の数時間の記憶がなくて何が起こったのかわからない。とりあえずホテルに戻ることをやめて、さくらに助けを求めて一泊させてもらう。
図書館にまた行くと図書館の受付の大島さんに話しかけられ、家出少年であることを見抜かれ、図書館で生活させてもらえるようにしてもらう。その準備のために高知の山奥の家にしばらく1人で滞在することになる。その家の裏には、迷ってしまうような深い森がある。その後から、図書館の一室で暮らし、図書館の開館などの簡単な手伝いをして暮らすようになる。図書館の一室で生活していると、図書館の責任者の佐伯さんの15歳の頃の幽霊を見る。幽霊は昔の恋人の描いた「海辺のカフカ」を眺めている。佐伯さんは現在40歳を過ぎていて、昔にレコードも出していた。雷にうたれても生きていた人の取材をした話を書いていて、それで主人公の父親と知り合った可能性があるので、年齢的にも田村カフカの母親の可能性がある。それを佐伯さん本人に話したのだけど、可能性があるまま答えは保留にされてしまう。佐伯さんの幽霊は田村カフカを15歳のときの恋人と思い交わってしまう。これは田村カフカが父親にかけられた呪いで、「父親を殺し、母親と姉を犯す」ということ呪いの成就を意味する。


1946年にUFOが目撃される事件があり、その光をみた小学校の生徒が20人近く気絶してしまった。その中で1人だけすぐに目を覚まさずに病院にしばらく入院した生徒がいた。これがナカタさんである。ナカタさんはこの事件の前までは優秀な生徒だったのだが、目を覚ましたときから記憶がなくなり、読み書きなどもできなくなってしまった。手先が器用だったので、木工細工の製作所で働いていたが、そこの雇い主がなくなり、兄に世話になるために年老いてから東京の中田区に住むようになった。
知的障害者としての補助で生活をしている。その他には、事件の後から猫と話すことができるようになったので、人に頼まれて猫探しのバイトのようなことをして暮らしている。
コマちゃんという猫を探していたところ、空き地にいる情報を得て、そこで待っているとジョニー・ウォーカーという猫を殺して、その魂で笛を作っている男で出会う。猫のコマちゃんもジョニー・ウォーカーに捕まっていて、猫を助けるためには、ジョニー・ウォーカーを殺さないといけないことになる。そこで無我夢中でナカタはジョニー・ウォーカーを殺す。交番でそのことは話したのだが、相手にされなかった。ナカタさんが自首とともに予言したように魚が空から降ってきた。ジョニー・ウォーカーは田村カフカの父親であるようだった。それから、ナカタさんはやらなくればいけないことが浮かび、西に向かうことになる。猫とも話ができなくなってしまった。いろんな人に助けられて、ヒッチハイクで岡山まで行った。その時のトラックの運転手のホシノさんと一緒に行動するようになる。
ナカタさんはやることがはっきりしないが、少しずつ次にする最低限のことが分かり、四国に渡る。そして、入り口の石というものを探し始める。入り口の石はホシノさんが夜中にポン引きをしていたカーネル・サンダースに在り処を教えてもらう。その石が雷の鳴る日に重くなって、入り口を開けるためにはその重い石をひっくり返さないといけない。ホシノさんががんばってひっくり返した。入り口を開けた後、またある場所を探さなくてはいけなくなった。それがなんと甲村記念図書館、田村カフカのいた図書館だった。そこでナカタさんは佐伯さんと話をする。佐伯さんはナカタさんに今まで書いてきた自分の記録を燃やしてもらうようにお願いする。佐伯さんは死がナカタさんに会うことが運命とだったようで、その後に机に突っ伏すようにして死んでしまった。


田村カフカの父親が殺されたことによって、家出をしている田村カフカを警察が捜している。問題が起きるのは良くないので、また高知の小屋でしばらく過ごすことになる。佐伯さんに恋をしていて、辛かったのだけど仕方ない。夢の中では嫌がるさくらを犯してしまった。これで姉も犯してしまったことになる。
主人公は深い森を本格的に奥に向かうことにする。リュックや食料や懐中電灯なども準備していく。しかし、途中で荷物は全部捨ててしまった。そのときに開けた場所に着き、昔この森で戦争の演習中に行方不明になってしまった2人に会う。ここは時間が意味のない場所で、入り口が開いているのはしばらくの間で戻って来れなくなってしまう可能性がある。森の奥では、15歳の佐伯さんが料理をつくってくれたりした。図書館もあるのだけど、そこに本はないという。それから今の佐伯さんにも会った。もう死んでしまったことをしり、海辺のカフカの絵をもらって、そしてこの森からでてちゃんと生きてほしいと言われる。


ナカタさんとホシノさんは、甲村記念図書館から帰った後に、佐伯さんの記録を燃やした。その後、入り口の石を閉じなければいけないのだが、そのタイミングが分からないまま、ナカタさんが眠ったまま死んでしまった。ホシノさんは入り口の石を閉めるタイミングを待ったまま、ナカタさんの死体とアパートで暮らす。ホシノさんは猫としゃべれるようになっていて、猫が邪悪なものが入り口の石を狙いにくると教えてくれる。深夜にその邪悪なものがやってきた。それは白いつちのこみたいなもので切っても再生するし、殴っても手ごたえがない。また重くなった入り口の石を閉めて、逃げ道をなくしたところで鉈でとても細かくして殺すことができた。その破片を袋に詰め外で焼いて、ナカタさんのことを警察に匿名で電話した。


主人公の田村カフカは、佐伯さんの意思を尊重して森から小屋まで帰ってきた。そこには、大島さんの兄が迎えに来てくれていた。サーフィンの話をして甲村図書館に向かう。図書館で大島さんと最後のあいさつをする。大島さんは佐伯さんに代わり、甲村図書館を仕切っていくことになる。海辺のカフカの絵を譲り受ける。さくらにも電話であいさつをする。それから、東京の家に戻り、警察にも連絡して、義務教育を終えようと決める。


感想・レビュー
実に村上春樹らしい独特の世界だったように思う。メタファーとか相手の言葉をそのまま繰り返す部分などが特にそう思えた。別々の話が近づいていきそうなのに、最後まで完全に交わらない部分が好き。


村上春樹の小説は、ヤマや落ちがあまりない気がする。結局なんだか成長したが、元の世界や生活に戻っていく話が多いような気がする。