どすこい(安) 京極夏彦

どすこい(安)

どすこい(安)


きっかけ
ごめんなさい、この本は100円で買ってないです。今現在も中古で100円というのは見たことないです。もっと探せばあるのかもしれないけど。ついでにいうと、再読です。
京極夏彦は僕の中で、最上級に好きなので新刊発売と共に買います。買った当時は、京極堂シリーズと巷説シリーズしかなかったので、どんな作品かかなり興味津々でした。


ネタバレ・あらすじ
いわゆるおすもうさんを題材にとった題名だけのパロディ短編集。中身も多少は元ネタをひきついでいたりする。
最初の四十七人の力士を除き、前の作品が次の作品の作中作という形になっている。最初の四十七人の力士は、最後のウロボロス基礎代謝でいう京極の先祖が伝えた話ということになっている。つまりループしている作品群である。他には共通点として、少しずつ名前を変わっているががCちゃんという女性編集者が登場する。あとは、大石や吉良などの四十七人の刺客のキャラの子孫っぽい名前でキャラがつくられていたりする。どの作品も地響きがすると思って戴きたいで始まる。


四十七人の力士 新京極夏彦は、四十七人の刺客 池宮彰一郎が元ネタ。いわゆる赤穂浪士の討ち入りの作品。京極流赤穂浪士といえるのかも。
江戸の雪の降る真夜中を、マワシ姿の力士が歩いていく。江戸時代に関取がいることは不思議だというところから、日本の相撲の歴史を紹介していく。力士たちは四十七人いて、目的地の吉良上野介の屋敷に着いた。先頭は大石山蔵ノ助という顔が悪いが技がすごく綺麗な横綱だ。屋敷内に侵入すると、力士たちは位の低いものから用心棒たちと相撲を取り、次々と倒していく。用心棒たちは非常識な展開に慌てている。力士に切りかかっても少し肌を切るだけで、刀が脂で切れなくなっていくだけだ。力士たちは、ちょうど決め技をかぶらないように決めていく。最後に吉良上野介を炭小屋で見つける。吉良上野介はこの戦いの1人だけに勝てばいいというルールを見切り、勝負にでる。老人には弱いやつが相手をすると思ったのだが、礼儀として1番偉い上野介には大石山が相手をすることになった。今までと技がかぶるのは気に食わないので、48手のうち残った技で小手投げか頭捻りか迷っているうちに、小手投げで倒してしまった。吉良上野介は倒したのだが、大石山には1つだけひっかかるものがあった。48手の技を全部決め終わるには、もう1人連れてくればよかった、と。


パラサイト・デブ 南極夏彦は、パラサイト・イブ 瀬名秀明が元ネタ。
編集者猫塚留美子と特捜科学最前線という記事を書いている松野という男が主人公。この松野はすもうとりが好きで、本当は科学にはすごく疎い。それを猫塚が資料を集めてなんとか書かせているのだ。ある日、松野の出身の村で凍結した縄文時代の巨人が発見されたというので、取材に行くことになった。その田力村では、松野の友人が鮎の三倍体の研究所を作っていて、そこに巨人を保管しているらしい。ちゃんとした研究者も呼んで調べたところ、縄文初期で今の生物学のどの分岐点にも登場の余地がないものらしい。しかも、実はまだ生きている。巨人である理由は三倍体なわけではなく、ミトコンドリアが太っているということらしい。ミトコンドリア、つまり寄生虫、パラサイトがデブ。松野がうっかり巨人に触ってしまったところ息を吹き返し、動き出した。そして、この巨人は村人や研究員を48手の技で倒していく。48手はDNAに刻み込まれていた技だったのだ。そして、あとは頭捻りだけを残し松野と戦うことになったが、巨人は松野を抱きしめ喜んで連れ去ってしまった。巨人は女だったのだ。
元ネタではミトコンドリア・イブのように確か女性が関係していたような。あとはサイエンス的な舞台などがパロディ化されている。


すべてがデブになる N極改め月極夏彦は、すべてがFになる 森博嗣が元ネタ。
編集者椎塚有美子と前作の作者南極夏彦が主人公。パラサイト・デブを読んだ片岡という青年から、この小説は元ネタとして、自分の所有する山の事件を扱ったものではないかという手紙が来た。しかも、その調査に乗り出した博士が2人この山の研究所で連絡をとれなくなったことについての意見を求めてきた。現場を見るために、椎塚と南極、さらに同僚の食い意地のはった寺崎と美男子の神崎と出掛けた。片岡家所有の山はピラミッドのように玄室があり、そこの近辺にトンネルを掘り、博士たちが研究所をつくったのだ。片岡家のモニターから連絡をとると博士が血だらけであれにやられたという最後の通信をして死んでしまった。その密室に4人は調査に向かう。そこに入るとトンネルの扉はシステムによって閉ざされてしまった。中を調べていると、博士2人の死体の他に人はいなかった。しかし、入室を禁じている玄室にはふるえる力士たちがたくさんいた。殺人をした犯人の力士と思い逃げたが追ってくる気配はなかった。博士たちが残した資料を調べていると、あの力士たちはとてもおいしいすまふ茸というキノコだということだった。しかし、少し食べただけで太ってしまうのだ。食料はなんとか確保されたが、アイコンやフォルダが力士型などの独自のシステムにより外にでられない密室だった。椎塚以外は脱出を諦め運動として相撲の48手の練習を始めた。それをヒントに、椎塚はいろは言葉が48進数であると見抜き、システムの扉の開けることに成功する。しかし、太って力士体型になった4人はもう扉をでることができなかった。博士たちも太りすぎででれないだけだったのだ。
独自のコンピュータの時間の数字が全部16進数のFになったときというトリックで密室をつくることに成功している部分がパロディかされている。


土俵(リング)・でぶせん 京塚昌彦は、リング・らせん 鈴木光司が元ネタ。
マゾでデブの編集者色部又五郎が、作家吉良公明の頼みで呪われた小説の謎を解こうとする。この呪われた小説は、全日本肥満連合が発行する同人誌で「悉く肥え太る」という題名らしい。その謎の資料を集め説明しているときに、突如乱入したすもうとりによって、色部又五郎は殺されてしまった。
それから50年後、色部又五郎の甥の色部又朗と吉良公明の曾孫の吉良公一が、呪いの小説の謎に再び挑もうとしている。吉良公明も呪いの小説のせいで死んでいるらしい。この呪いの小説で死んだ人は47人いて、しかもその全員が太っていたという。デブ専の同人誌ではあるが、読んでいる人が全部デブというのは不自然だ。しかも、この人たちは太るのを待ってから殺されている。そして、今この時代に「悉く肥え太る」という意味の小説「すべてがデブになる」が再び出版されようとしているのだ。呪いの小説の再来の謎を解こうとしていると、すべてがデブになるの作者の月極夏彦こと千津川寿美子が登場する。寿美子は50年前の祖母の心残りを晴らそうと、この小説を書いたという。祖母の旦那は関取の6代目大石山で、強すぎて相手を殺してしまうので、角界を追放になった。しかし、旦那の相撲をしたいという思いをとげさせてあげようと、相撲の素人名人などを探し出し、呪いの小説を送った後で、隠れて栄養ある食べ物を差し入れたりして太らせてから、旦那と相撲をとらせてあげていたらしい。もしも殺してしまっても呪いの小説のせいにできる算段だったのだ。吉良公明は相撲に関係なかったが、48人にエントリーされていた片岡が階段から落ちてしんでしまったので、代わりにエントリーされたらしい。しかも、興味を持たせるために小説にわざわざ登場させたのだ。しかも、乗り込んできたところにデブの色部がいたので間違えてすもうをとって殺してしまったということらしい。そして、第3部LOOP(マワシ)に続くという嘘で終わる。
リング・らせん・ループという3部作と、呪いの小説という部分でパロディ化している。


脂鬼 京極夏場所は、屍鬼 小野不由美が元ネタ。
浅野巧巳という医者と吉良静珍という僧侶がいて、さらに前作の作者の京塚昌彦がカンヅメにされて、編集者弓塚千津が見張っている。この山奥の村では、ちゃんと供養せずに遺体を放っておくと太って生き返るという伝承がある。この村は雪崩で県道が通行止めになり、蓄えてあった食糧も誰かに食い荒らされて減っていた。村中の人間を集めて会議をはじめると、医者が藪だったことや僧侶がちゃんとお経を唱えていなかったことが発覚していく。しかも、その母親同士が漫才的な話の進め方をしていく。最近人が死にすぎることもおかしいといい始めて医者がせめられ、死体が焼かれて骨が全く焼け残らないのもおかしいと騒ぎ出す。そこに、弓塚千津が登場して、伝承が正しいことを主張する。村役場がおすもうさん、脂肪に囲まれた時に、火葬場の片岡が太った状態で現れ説明を始める。1人暮らしの片岡がうっかり死んでしまい、太ってよみがえってしまった。火葬場に運ばれてくる遺体がみんな蘇りそうでかわいそうで焼けなくて隠していたらしい。そして、隠したことによりまた太って蘇ってしまった。太ったはいいがお腹が空いて仕方ないので、食料を夜中に食べていたらしい。さらにこのまま、この村にいることもできないので相撲の練習をして全国巡業に出掛ける気だったらしい。その練習で雪崩が起こっていたらしい。そして、あと1手で技を全て覚えきる。残った技は頭捻り。
村は死に囲まれていたなどの文が、うまくパロディ化されていた。1番パロディとして元のものを使っている感じがした。蘇る死体、その死体が仲間を増やそうとするところ、その伝承、医者と僧侶が解決をめざすところがうまくつかわれている。


理油(意味不明) 京極夏彦は、理由 宮部みゆきが元ネタ。
京極夏彦が名前を変えて、パロディとして理油を書いたということで、それについていろんな人にインタビューをしている。京極夏彦が回りの一般の人や編集者や作家にインタビューするがだれもが京極夏彦が書いたと思っている。脂鬼を書いた本当の作者を探そうと思い、屍鬼の作者O先生に聞くと、パロディ化されることは聞かされていたという。編集者のC嬢こと千津野久美にいきつき、事の真相を聞きだす。実はこの京極夏彦ペンネームで京極夏美が本名。そして、久美の策略により夏美の名前をもじった名前で書けば、全部夏美の所為になると考えたのだ。脂鬼は実は久美の初恋の人の息子、大石君が書いたものだった。すもうの英才教育をされてきたのだけど、本人は作家になりたくて、父親に雑誌に掲載されたらすもうをやめさせてくれる条件だったのだ。この大石君の父親も、祖父の人気関取だった大石山も、元床屋のよぼよぼの曾祖父に相撲で勝てなくて、その夢を大石君に託したため相撲取りになってもらうつもりだった。そこに曾祖父がでてきて、父親と祖父が相撲をまた挑むが勝てなかった。そこで京極夏美が勝てない理由を見破り、大石君に頭を下げて攻撃する技をつかわせる。これが頭捻りだった。曾祖父はいろんな臭いものを混ぜた特別な油をつかい頭の大銀杏をつくって、相撲でまわしをとると大銀杏が顔の横に来て、その臭いで気絶してしまうというものだった。理由は油、理油というオチ。
いろんな人にインタビューしていくという部分が使われている。


ウロボロス基礎代謝 両国踏四股は、ウロボロスの基礎論 竹本健治が元ネタ。
京極夏彦がいなくなったことについて、各出版社の編集者が話をしている。京極は力士の集団にさらわれたという。それは狂言誘拐という説もでてきた。しかし、どっちにしろいなくなっても、もう出版済みやまったく書いてもらっていない状態なので困る編集者は少なかった。しかし、このどすこいの小説が9割方できているので、遅塚だけが困っている。このままでは仕方ないので、仕事の受付をしてもらっていた大沢在昌の事務所の応対の人の話を聞く。そんな集団の力士にさらわれるなんてそいつらは妖怪じゃないかなどの憶測が飛ぶ。このままではどうにもならないので、さらにいろんな作家を集めて話を聞くことにした。いろんな作家に意見を言わせ、結論的に京極が登場しないのは書いているのは京極だからだというメタな展開になった。
そして、これは作中作だったので、京極夏彦が今この作品を書いている段階になる。相撲取りに誘拐されたのをシリアスに解決するのは難しいが、実はこれには元ネタがあるのだと編集者、大石に話をする。京極家には一子相伝で伝わっていて、口外してはならないというものがあった。それは赤穂浪士の討ち入りが実は力士だったという話である。これを大石に話すと、大石は言ってはいけないと言ったじゃないかとだんだん太り始め、京極夏彦は襲われる。
確か実在の作家を登場させているのと、メタな展開がパロディ化されているのかな。


感想・レビュー
元ネタの作品は、四十七人の刺客を除いて読んである。むしろ、リング・らせん、すべてがFになる以外の作品はこの本を読んだせいで、気になって中古で100円のを見つけると買ってしまった。どれもおもしろかった覚えがある。パロディ化されるだけはあると思った。


京極夏彦はこういうふざけた作品もおもしろく書けるのかと感心してしまった。確かに理屈っぽところや文体なんかでやっぱり京極夏彦だよなぁと思わせる。ちゃんとページ毎に句点で文章も終わらせている。
挿絵や挿入漫画のしりあがり寿先生の絵も、作品を盛り上げている。