エミリー 嶽本野ばら

エミリー

エミリー


きっかけ
下妻物語の作者なので、中古で100円ででていたのを見つけたので買いだと思った。


ネタバレ・あらすじ
レディメイド 主人公の女の子は同じ会社の貴方に恋をしていた。貴方は会社の人と飲みに行ったりもせずに、食事中に仕事の話もしない。合理的なんだけどかわいげがなくて、意地悪。貴方が大学で美術を専攻していたことを聞き、気をひくためにニューヨーク近代博物館の展示が上野の森博物館に来たときのことを話し出した。既存の物体に自分のサインだけを入れる芸術をレディメイドと呼ぶことや、デュシャンマティスのことを話すが、流儀の違いが分からないだろうと話を打ち切られてしまう。しかし、部屋に帰るとポケットにニューヨーク近代美術展のチケットとデュシャンの絵の前で会いましょうという添え書きがあった。この白いただの封筒に貴方のメッセージが入っただけで、とても大切なものになった。その後、主人公は美術展での「この絵をそんなに嫌いじゃないよ」というのを、貴方の遠まわしな告白だと信じて腕につかまった。


コルセット 主人公は僕。骨董屋の希彌子さんと19世紀に生まれてくればよかった、この時代は自分たちに合わないという話をして、その日の夜に2人とも自殺する約束をした。そして、希彌子さんは本当に自殺してしまった。
死にそびれてしまった僕はその虚無に侵され、鬱で神経科に通うようになった。それから3年が過ぎ、希彌子さんの自殺した年齢と同じ30歳になったときに、仕事のイラストレーターとしての連載がちょうどなくなり、誰に迷惑をかけることもなく死ぬことができるようになった。遣り残していた部屋の掃除や、うにやいくらをお腹いっぱい食べることもした。そして、最後にダメもとで病院の受付の子を「身体の夢」という衣装の展示会に誘ったところ了承してもらえた。
そこでコルセットやスーツを見て、衣服の芸術について語ったが、受付の女の子は話についていけず謝ってばかりだった。その後、服屋に入り服を買ってあげた。そして、帰った後に自殺する気だったのだが、彼女のまた逢ってほしいという誘いで死ねなくなってしまった。次に逢った時には食事をして、彼女が今度はネクタイをくれた。その後、僕の家に行き寝てしまう。引越しをするといっていたが、それが嘘であることを話し、それ以降も時間を見つけては2人で逢った。
彼女は実は2週間後に結婚する予定だという。人の招待もしてあるし、準備もすすんでいるので、今から結婚をやめることはできない。それでも逢っているうちに、彼女の結婚相手に見つかってしまう。話し合いの結果、もう逢わないことにして、彼女は無事彼と結婚してニュージーランドに新婚旅行に行った。その旅先から手紙が届き、また逢ってくれと言う。人間だれしもコルセットに拘束されているような生活を送っているのだ。


エミリー  Emily temple Cuteというブランドを全身に来ている中学生の女の子。世間や家族やあらゆるものになじめなくて、学校のクラスでもバレー部でもいじめられている。1度だけしぶしぶ承諾した雑誌で名前をエミリーとしていたことで余計にいじめられるようになった。小さい頃に人見知りを直すためにタレント養成スクールに通い、ある子供向け番組に出演したのだが、そのお兄さんに性的ないたずらをされ、男性嫌いになってしまい、ついでに腰まであった長い髪をきって、ベリーショートにしてしまった。ただ唯一自分を受け入れてくれる場所としてEmily temple cuteの前に座り込む毎日を送っている。
その座り込んでいるときに、いつものナンパや雑誌の取材ではなく、ある男の子が声をかけてきた。その子は同じ中学の先輩で、オタクの集まりのデザイン工芸部に所属している中で、1人だけ真面目に絵画の勉強をしている男の子。服は全てSUPER LOVERSにしている。それから何度かそこで男の子と話すようになったが、学校ではお互いいじめの標的にされているので、これ以上いじめられる理由を作らないようにお互い無視しようと約束をする。
その後、ゴミ焼却場の裏で2人で昼食を食べるようになり、さらにいろんな話をする。男の子は陸上部の先輩のあこがれていて、スケッチさせてくれるように頼み、仲良くなった。しかし、その先輩に告白してきた女の子がいたことを相談されて、「先輩のことを好きです」と思わず告白してしまったことから、ホモとして先輩に嫌われ、さらに学校中に言いふらされてしまった。それにより、学校ではいじめられるようになった。その後は、ホモであることを受け止め、それを悪いことだとも思わずに生きてきた。
ある日、主人公はまだ1人で昼食を食べているときに、クラスの子が来て、主人公を焼却炉に鍵をかけて閉じ込めてしまう。それを男の子が発見して助けるが、このことでキレてしまい、やっていいことと悪いことがあるといい、自分で抜け出せない焼却炉に入れることはやりすぎだと、いじめの犯人を教室で殴り倒して、椅子を投げたりガラスを割ったりあばれる。それから何日か学校に男の子は来なかった。
主人公は、店の前で座り込んで待ち続けて5日後、男の子はやってきた。そこで嫌な事件があったことを話し始める。先輩に呼び出され家に行くと、今までのことを謝られた。そこで男の子にオナニーをさせるという謝罪をしたのだけど、実は仲間がかくれていて、先輩がホモに好かれたことがあるということを証明するために呼んだのだった。先輩は仲間に1万円をもらい、男の子に射精をさせてあげた。
それを話し今日は帰りたくないという男の子に付き添い、主人公は帰らないことにした。そして、疲れた体を休めるために、ホテルに行くことにする。そこで、主人公は男の子に告白をする。男の子はキスをして、2人は裸になる。主人公は男の子の愛撫でイクが、男の子はホモなので主人公ではどうすることもできなかった。しかし、2人のお互いの肌のぬくもりを感じて、セックスでもなくただ番うという行為をした。この先、何かがうまくいかなくても、受け入れられたこの夜をいつでも帰ってくることができる。


感想・レビュー
世界に受け入れられなかったり、迎合できない人たちが、絵画や服などの芸術から世界を見ている感じがした。特別な服などを通してしか世界と関われないような悲しい感じ。それでも、最後にみんな今後どうなるかわからないが、道がひらけたという感じのハッピーエンドに終わっている。


画家の名前や絵画作品の名前、ブランド名など知らないし、キュビズムやシュルレアリズムなども分からない。そういう意味では難解な作品。でも、短編名がちゃんと作中のどの部分から来ている思いなのかはよく分かる。