日本進化論 2020年に向けて 出井伸之

日本進化論―二〇二〇年に向けて (幻冬舎新書)

日本進化論―二〇二〇年に向けて (幻冬舎新書)

きっかけ
時々新書を読みたくなるようになったのだけれど、最近の100円で売っている新書はおもしろそうなものはあらかた買ってしまった。少し無理して選んで買ってしまった感のあるこの本。
それでも、この本を買った理由は、著者の名前をなんだか聞いたことがある気がしたこと、2020年という未来に向けて書いている本であったこと、日本という国の未来について書いてあることだった。表紙裏の著者紹介を読み、名前に聞き覚えがあった理由がわかった。元ソニーCEOか。


ネタバレ・あらすじ
今、日本人は漠然とした不安を抱いている。それは今までの歴史を見てきても、農業社会から産業社会への変化で、貧富の格差などが広がる時期に起こっている。今の日本は産業社会から情報社会への変化で、悲観論に
とらわれている。これからの若者には、適度に楽観的になることによって、未来への希望を持って欲しい。


日本はアジアの中で、民主主義・資本主義が定着している異質な国である。その他のアジアの国は、中国・韓国はじめ社会主義ばかり。そして、アメリカ型の資本主義よりも、EUに加盟しながらも島国として一時期の停滞をはねかえしたイギリスに学ぶ部分が多い。
世界は、リアルな商品より、ヴァーチャルなサービスに移行していっているが、日本の強みであるモノづくりには十分なブランド力があるので、中東などに売れることを見ても、そんなに悲観する必要はない。スウェーデンの企業とソニー・エリクソンの成功例もあるように、世界の企業と組むことで生かしていくことができる。


日本のリスクには、高齢化、官僚主義、閉鎖社会、国内中心主義、エネルギー、環境問題があげられる。高齢化はいうまでもなく、少子高齢化のこと。官僚主義は、政府・大学・会社の結びつきが密接すぎて経済が阻害されている。閉鎖社会は、日本の資本主義の独自性、携帯電話などのシステムの独自性などがあげられ、まだ鎖国となっている部分が多いこと。国内中心主義は、日本語しか使えないこと、空港が深夜に閉まることなど、まだ日本を中心に考えて世界に目を向けていないこと。
経済のことでいうと、日本には上場企業が多すぎて、証券取引場が多すぎる。もっとまとめることによって、法律で守られていることで、トップという座で安心しているよりも、次の世代「21世紀型産業」のトップを狙っていくようにしたい。


世界では本当のネットワーク社会が始まりだしてきている。ソニーも得意のオーディオビジュアルからIT分野への進出を始めている。社会も、工業製品数を減らして効率をあげていく「秩序型社会」から、価値を持つものが情報やネットワークとなる「複雑系社会」へ移行していっている。携帯電話でも、昔は電話をできるという携帯電話のハードに価値があったが、今は携帯電話を通じて入手できる情報の方に価値が傾いている。これは半導体産業の発達による部分が大きいが、その成長もそろそろ限界に到達するので、さらに情報に価値がもたらされていく。


すべてがネットワークにつながることによって、2020年の社会は劇的に変わっていく。ハイブリッドカーから電気カーへなり、道路との情報のやりとりを行い自動運転をする。家も時間帯を通じて、夜は寝室が広くなったり、お客さんが来たときはリビングが広くなったりするなどのように、家作りの発想自体が変わっていく。量子コンピュータが登場して、検索エンジンや暗号解析が劇的に進む。変化が新産業をどんどん生み出していく。その中でどこかルールを壊して発展させていく人が必要。


日本という国家は、この先世界に対して、平和・環境・文化国家の宣言をしていくことが必要。平和国家としては、日本の存在感的にも戦争をせず、武力を持たないことを改めて宣言する。環境国家としては、日本にある自然をもっと前面におしだし、さらに政府からの援助も環境対策をしている国に対して多くしていくなどの選択が必要。文化国家としては、伝統的な歌舞伎や能の他にも、秋葉原を代表するオタク的な文化を発表していく。国家として成熟的には、政治、経済、文化の順に成熟していくので、日本はそれをもっと誇っても良い。
日本の政治も大幅に変更する必要がある。小泉首相に人気がでたように、最高権利者にもっと権限を集めCEO的にする。他も大会社の組織のように、国外担当と国内担当のそれぞれの大臣を1人おく。2院政を廃止して、選挙ごとに人数を減らすことで、生き残りをかけることにより優秀な人材が残るようにする。
経済的には、高い法人税を減らし、世界の国のようにもっと自由に勝負できる部分を増やす。日本は人口減少に向かっているので、新しい資本主義や循環型社会が必要になってくる。
学問的には、理系・文系という境界を取り払い両方を学んでいくようにする。どちらかの考え方だけではいずれ破綻する。
東京という年に集中しているものを地方に配分していく。東京に一極集中していると、災害に対するリスクにもなるし、各地方都市に分割することで、それぞれの地方都市にも特色をだしていくことができる。


感想・レビュー
とりあえず書かれたのが、2007年という昔だという認識で読まないといけない。正直、読み終えた第1印象からいくと、ソニーのCEOともなると考えるのは、会社のことだけじゃないなぁということだった。しかし、これからの日本の政治の面ではおもいっきり、自分の成功した大会社的な組織が良いのではないかというのは、CEOらしいと思う。


個人的な生活でも未来が見えないのは、国家としての日本の未来が見えないことにもつながるのかなとは思った。餓死するとかそんなレベルに全然いっていないのに、失業者が増えたとか妙に暗いニュースばかり聞く。まだまだ日本は底辺じゃないはずなんだよね。ただニートのように働く気がない人たちが増えていくのも、日本の未来のせいかなぁとも思う。だから、全部日本のせい、政治の所為で甘えられても困る。


日本の1番の問題は、国内主義なのかと思った。日本を中心に考えているわりに、会談などでは全然日本のことを主張できずにいる。日本を中心に考えているが、長い目で見て日本に有益なことができていないと思う。日本語や携帯の独自性も、海外の国が日本に進出しにくいとか日本が相手にされない原因をつくっている。確かに未だに鎖国だといえると思う。


オタク的な文化を日本の文化としてだしていくことに、恥ずかしく抵抗があった。しかし、確かに文化というのは産業として最後に発達するのは、国家として余裕のある証でもあるし、誇りに思ってもいいのは納得した。オタク文化を目当てで日本を訪れる海外の旅行者も増えているのが現状だし。伝統的な文化としても、サムライ、忍者とか未だに言われているのも発展がなくてどうかとは思うが、もうちょっと他の文化が強くなるとよかったと思う。


でも、1番感じたのは、プロローグで書いてあった、「適度に楽観的であれ」でした。