命 柳美里

命


きっかけ
江角マキ子主演で映画かもされている。それから、この主人公は私のことじゃないかという訴訟もあり、けっこう話題になった作品。ということは、1度読んでおいたほうがいいと思った。


ネタバレ・あらすじ
主人公は柳美里在日韓国人で小説家。自分は妻のいる男と不倫して付き合ってる。そして、妊娠してしまった。それと同時期に、昔一緒に暮らしていて今も仲良くしている東由多加がガンの末期症状だということを知らされる。


付き合っていた男は、どんな願いも最初は承諾しなくて、でも強くいうとしぶしぶ承諾するような男。子供も生むかどうかも、胎児認知(お腹にいる間ならば、認知してもらえば父親の国籍を名乗れるようになる)についても、養育費の問題についても、妻に知らせるかどうかも、そうやって時間をひきのばしていく最低の男。妻に別れてもらうと口だけは言う。それがかなわなくても、主人公は生むことを決心した。もう気持ちが戻らないように、妹に相手との今後の交渉をすべて任せている。


主人公だけで育てることはできないので、東に相談したところ、一緒に育ててくれるということになり、変わった家族関係が生まれる。ひどい妊娠中毒症で苦しみ、東もアメリカに渡ってまで治療をしたりする。そして、柳が赤ちゃんを生むのにあわせて、東は日本に帰ってきて日本で治療しながらも柳の世話もしてくれる。東は抗がん剤が効かなくて、副作用で吐き気を起こしたり、髪の毛が抜けたりしていく。余命数ヶ月といわれても、東は子供(柳丈陽)が2歳になって、自分の名前を呼び近づいてきてくれるようになるまでは生きると誓う。東の病状がひどくなり、子育ては結局柳が小説を書く時間を削ってもすることになる。家での沐浴は失敗ばかりで東にどなられながらもなんとかこなしていく。


東のいなくなる不安を抱え、ようやく子供に素直に愛情をそそげるようになった。しかし最後に、あとがきでは東は死んでしまったことが知らされるのだけど。


感想・レビュー
死に近づいていくものと、新しく生まれたものという2つの命の間を生きていくという話。それでも、どちらも必死に生きていこうとしている。命を大切に考えられるようになるすばらしい作品。といいたいところだけど、命の間でどうしたらいいかわからず、とまどっている女の人が強く印象に残る。事実を考えれば、それが正直なところなんだと思う。自分の子供に、もう会えない相手の陰が見えたら嫌だと思う。


それから、国籍という問題は分かりにくいが、柳は母親が日本姓にしなさいといいながらも、韓国では子供を生んだ女性は1ヶ月は水をさわっていはいけないとかそういう慣習は捨てきれないのだろう。母国というものは忘れたようでいて、捨てたようでいて、なかなか心の底から離れることはできないのだろう。