ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ 佐藤克文

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)


きっかけ
生物学ってけっこうおもしろいと思い始めたので、100円であったこの新書に興味が湧いた。


ネタバレ・あらすじ
ペンギン、アザラシ、クジラなどの海洋生物にデータロガーという装置をつけて、その動物の生態を解明していく。データロガーからは動物の体温や潜っている深度、筋肉の動き、カメラをとりつければ画像も取得することができる。この学問を「バイオロギングサイエンス」という。
海中は空中と違い、電波が届かなかったりするので、遠隔操作でデータをとることができない。だから、ペンギンやアザラシには機器を取り付け回収する必要がある。この回収が確実に行われるように、卵を温める交代のタイミングなどの確実に戻ってくる時を生態を観察して知る必要がある。機器を小さくして生物の負担を減らすことはもちろん、さらにどうすれば傷をつけずに機器をとりつけられるかなどのローテクも必要になってくる。



初めての実験では、砂浜に産卵にきたウミガメにとりつけた。2週間後にもう1度産卵にくるので、データロガーを回収しやすいのだ。ウミガメは爬虫類で変温動物のはずだが、体温を水温よりも少し高めに一定に保っていた。大きいウミガメほど、体温を高く保っていた。これはウミガメが代謝熱という内部熱源を使っていることがわかる。大昔の恐竜などの大型爬虫類も体温を一定に保っていたといわれる。
ペンギンは恒温動物といわれるが、実は潜るときに体温が下がる。深く潜り餌を食べた瞬間に胃の中の温度がさがる現象とは別に、潜ることにより緩やかに胃の中の温度がさがることがわかった。深く潜ったときに動くためのヒレの筋肉に酸素を送るために、胃の中の温度はさげて、必要なヒレに血液を送っている。


加速度計を取り付けることにより、ペンギンのひれの動きが分かるので、潜っているときにどれだけヒレを動かしているか分かる。潜水直後はヒレを強く動かすが、浮上時の浸水80メートルからはヒレをまったく動かさない。ペンギンはベイルの法則を利用して、浮上時の空気の膨張を利用して加速してあがってくる。それは空を飛ぶ鳥が滑空するように、ペンギンがグライディングして浮上するのと同じようになっている。浮力が大きいということは潜るのにたくさん力を使うことになるので、浅い潜水時には浅く空気を吸い込むことで浮力を調節している。
同じような実験をアザラシにもした。アザラシはペンギンとは逆で、潜るときにはヒレを動かさず、浮上時にヒレを動かす。アザラシの潜る行動は落下という感じだ。しかし、これはすべてのアザラシにいえることではなかった。大きいアザラシは脂肪がたくさんついていて、この脂肪は海水よりも軽いので潜るときもヒレを動かす必要があった。脂肪が潜行、浮上のヒレの動かし方を決めるので、アザラシは浮力になりえる空気を全部吐いてから潜る。


アザラシの深度250メートル以上の深い潜水は餌とりのために、浅い潜水は子供に泳ぎを教えるためだ。
ペンギンの場合は、深い潜水も浅い潜水も餌とりのためだが、ペンギンには外敵のアザラシなどがいるため、浅く潜って警戒していることがある。さらに群れて行動することや、氷上でも水際ぎりぎりにいたりしないのは、外敵からの保身のためだ。


ペンギンが一列になって歩くのは、意外とでこぼこの多い道を楽に歩くため。さらに時々割れ目などの落ちるとペンギンのジャンプ力ではのぼってこれずに死につながるので、安全のためともいえる。
ペンギンが水中からジャンプして飛び出し氷に着地するのはよく見る光景。ジャンプしてでてくると、ペンギンから滴った海水が水際でこおり、高さがどんどん高くなっていく。これも計算してペンギンは浮上速度を変えて、ぎりぎりで氷に着地できるように調整している。高さ1メートルまでは上がれる計算がでている。


表題のペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐという部分に入る。大きさの違うペンギンとアザラシでも大体同じくらいの速さだったので、同じデータロガーで研究している仲間によびかけデータを集めた。マッコウクジラやペンギン以外の海鳥などのデータも比較したところ、大きな動物ほど低い周波数でヒレを動かしている。鳥でも哺乳類でも筋肉の組織に違いはないので、海中で1番効率的な動きをした結果、秒速2メートル前後の速さで、大きい動物ほどヒレをゆっくり動かすことになる。


教科書は、小・中・高・大と学校を進むたび、それと同じだけの嘘が含まれてくる。小学校の教科書ではほとんど嘘はなく、大学では嘘ばかりということ。大学では、その教授の書いた本が教科書として使われていて、その教授も現在研究中のことを教えたりするので、嘘も多くなってしまうことがある。


途中にでてくるアデリーペンギンやウェッデルアザラシなどの特徴を書いたものや、南極生活や各国の科学者の性格の違いを書いてあるコラムもおもしろい。


感想・レビュー
陸上にくらべ、海中というのは深海は当然ながら、浅い部分でもまだまだ未知の部分が多いのだと知った。科学者ではなくても、潜るときは空気はたくさん吸い込むと思っていたし、餌はあまり深い場所にはいないと思っていたものが覆された。


予想を立てて実験しても、思い通りの結果がとれず、新しい発見をしてしまうこともある。今までの科学はこういう副産物でいろいろ分かってきた。実験を証明してくれるようなデータがとれずとも、少し発想を変えれば他の事実に気づくことができるのだ。