硝子のハンマー 貴志祐介

硝子のハンマー

硝子のハンマー


きっかけ
黒い家に始まり、貴志祐介作品はわりと全部読んでいるので、100円で持っていない作品を見つけた場合はいつも買っている。映画化作品も多いし、人気あるんじゃないかなと思っている。前作品の「青の炎」から随分時間が空いたなぁと思っていた。期待している作家なので、硝子のハンマーが出版された当時は新品で買おうかとまで思っていた。


ネタバレ・あらすじ
介護用品や介護師の派遣などを請け負う株式会社ベイリーフの社長が密室で撲殺された。社長室はビルの最上階の12階にあり、窓は嵌めごろしで外からの侵入はできない。ビル内のダクトも埃の堆積具合から、侵入口として使われた形跡はない。ドアの前の廊下には、監視カメラがあり、他にも4台のカメラがいろいろな場所に設置されている。エレベーターも12階だけは暗証番号を押さないと止まらない仕組みにしてあり、階段からも鍵がないと入ることはできない。ビルには警備員も常駐している。


社長は、ビルの窓拭きの青年によって外から様子がおかしいと通報された。すぐに副社長が見に行き、第1発見者となる。専務はとなりの部屋で寝ていて、ここからだと監視カメラを通らずに社長室にいけるので、容疑者として拘留されることになる。


この専務の無実を証明するために、弁護士青砥純子が事件を調べ始める。本当に侵入できなかったかどうかを調べるために、防犯探偵の榎本径に応援を頼む。そして、1つ1つ可能性をつぶしていく。監視カメラの録画記録のすり替え、介護サルによるダクトからの侵入、介護用ロボットによる殺害、秘書3人による入れ替わりトリック。どの方法にも問題点があり、実行はできそうもなかった。


後半は、通報者にして犯人の進藤章の人生と殺人を犯すまでが書かれている。両親は大きな遺産を引き継ぎ、先物取引でも大もうけをして、そこからさらに勝負して、大損して借金まで首がまわらなくなり、父親は自殺、母親は離婚して実家に帰ってしまった。1人残された章は、借金取りから逃げようと決意する。図書館やネットで情報を集め、残った父親のクレジットカードで、限度額まで換金用の金のネックレスを買って資金とした。地元の引きこもりの名前や住民票を使い、原付の免許をとって身分証明書をつくった。そして、田舎をでて人の多い東京に逃げる。


住み込みでパチンコ屋の店員をして資金をためて、保証人のいらない外人ハウスに住むようにした。そこでリフォームの工務店に務めて、ガラスの扱いや工事を覚えた。2年くらい働いた頃に、地元の唯一の友人が死んだことをしり、それがどうも自分を追いかけていたヤクザのせいだと分かる。しかも、そのヤクザは自分の住んでいた地域のすぐ近くに本事務所があった。


もしもの場合を考え、別の外人ハウスに引っ越すことにした。ビルの窓拭きの正社員として働き出す。仕事をしている時に、ビルの一室で人が大量のダイヤモンドを見ているのを発見する。そこから、それを盗み出して人生をやり直そうと決意した。ネットでいろいろ方法を調べ、監視カメラは赤外線センサーなので、熱を外にださない特殊スーツに全身を覆い、窓拭きの仕事であずかる鍵の複製をつくり、夜中に侵入する。ダイヤの隠し場所をしらべたが見つからないので、情報を集めるために盗聴器をダクトに仕込む。そこから聞こえてきた音から推理して、チェストの裏側に隠してあることを知る。


ダイヤの隠し場所は分かったが、盗んだ後の社長の行動がこわかった。ヤクザから追われている身分なので、相当額のダイヤのために、社長も同じようにヤクザなどを使い、いずれ自分の身を危険にすることが予想された。だから、殺害を計画する。


何度かのビル侵入、社長室侵入、盗聴により、社長の日常生活の習慣や、開頭手術をしていることを調べ上げる。睡眠薬を砂糖の中にセットしコーヒーで飲ませ、昼寝中に介護用ロボット社長を運び窓と密着させ、嵌めごろし窓を工事で数ミリ動くようにして、外から窓をボウリングの球で殴りつけ、窓を媒体に社長の手術後の部分に力を与えるという方法。力が完全には伝わりきれなかったので、即死はしなかったが、ドアまで這っていくうちに絶命した。これで密室の遠隔殺人は成功した。


ダイヤを盗みだし、家で隠していたが、盗まれないか気になり、ほとんど家にいるようになってしまう。青砥純子からの呼び出しには疑われないためにも、行くしかなかった。そこで、榎本径から真犯人が章だといわれる。進藤の家に榎本が侵入してダイヤを見つけたこと、偶然の強風で嵌め殺し窓が動いたこと、ビルの屋上の貯水槽からボウリングの球が見つかったことなどを、証拠としてつきつけられた。


そして、章は刑務所に入る。硝子のハンマーという今回の凶器もからめ、刑務所での更生させるということについての問題点が語られる。硝子のハンマーよりも砕けたあとの欠片のほうが凶器としてこわいのだと。


感想・レビュー
1つの大きな事件なのに、前半の可能性を1つ1つ潰す部分などは、内容をどうも膨らませようとして無理をしているように感じた。まだ引っ張るかという感じがした。まず小さな事件を扱わせて、その後に本当の大事件にかかわるか、実は最初の小さな事件も大きな事件の一部だったという感じを期待していた。しかし、後半の犯人の人生は良かった。貴志祐介はミステリーよりもホラー書いたほうがうまいと思う。


弁護士青砥純子と防犯探偵榎本径シリーズということになっているらしい。第1作なので、シリーズにする気があったかはわからない。でも、最後を読むと続きそうとも、そんなこともなさそうともどっちともとれる。榎本径がどういう気持ちで青砥純子を見ているかというところで、恋だけとも思えない感情があるように見える部分を感じたので、それなら続いてもいいかと思う。